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管理人山猫礼と副管理人ユースケによる小説と絵のブログ 毎週水曜更新b


by eternal-d-soul
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近未来新都心 Chapter03 NO.09

「ちょっと、どうしたのよ?」
 妙だ。何かが妙だ。先ほどサガトとの回線が開いたままになっているスピーカーから小さなノイズが聞こえた。最初は気にもしていなかったが、それ以来サガトとの通信が不可能になってしまっている。
 ここの情報もLv3というのに区分されている所まではハッキングすることが出来た。しかしその先のLv4という最終レベルへのハッキングがなかなか成功しない。Lv3までと違い極端にプロテクトが強固になっている。自分のコンピューターがあればハッキングプログラムで易々突破出来そうだが、生憎手元には簡単なプログラムを詰め込んだ端末しかない。おまけにここのネットワークがインターネットと完全に切り離された、イントラネットで形成されているせいでツールのダウンロードも難しい。
とりあえずLv3までで得られたデータによればここは遺伝子の研究を行っていたナイアーズケミカルの極秘研究部門らしい。搬入されている薬品やら工具やらからとても真っ当な研究をやっている様子ではなかったが・・・。
「ひょっとしてソートーマズイ状況なワケ・・・?」
 まさかあのサガトが倒された?そんなはずは・・・
「ないわ・・・よね・・・・?」
 そんなことはない・・・そう言い聞かせるが悪い方にばかり考えが向いてしまう。サガトが言っていた通りここは到底マトモな所ではない。何が起こるかすらも分からない。そんな場所でラウルばかりかサガトまで居なくなった・・・そうなると自分はこの怪しい気なところでひとりぼっち・・・
「・・・・」
 なんだか急に温度が下がったような気がする。
「そ、そんなワケないわよね!」
 と一人虚勢を張ってはみるものの、この重苦しい空気を拭いさることは出来ない。と、すれば自分に出来ることは一つ・・・。
「さっさとLv4突破してここのセキュリティー頂くしかないわね・・・」
 イーシャが作業に取りかかろうとしたそのとき・・・。
 ヒタ・・・
「・・・!?」
 足音・・・・?
 確かにそれは足音だった。何故か一回だけしか聞こえなかったが・・・それが余計にイーシャの不安を煽る。
「だ、誰・・・?サガト・・・?」
 デスクの上に置いた拳銃を手に取りながら立ち上がる。セーフティを外して初弾が装填されていることを確認する。ゆっくりとイスから立ち上がり、部屋の鋼鉄製の扉に近づく・・・。
「・・・・」
 扉の前に立つが、向こうに気配がない。不気味な沈黙・・・ひょっとして自分の空耳だったのだろうか?
「そ、そうよね・・・空耳よね・・・」
 イーシャが自らの心を奮い立たせて、仕事に戻ろうと踵を返した。
ドン!!
「ひっ!?」
ドン!ドン!ドン!!
 鋼鉄の扉の向こう側から何者かが扉を叩いた。それはノックなどという軽いものではない。わずか数撃で鋼鉄の扉が歪むほどの驚くべき力だ。
「な、ななな、ナニ!?」
 いきなりのことに一瞬思考が停止する。しかし、すぐさまそれが敵の攻撃であることが分かる。そして恐らく自分では対処しようがないことも。
「ちょ、ちょっと!サガトはナニしてるワケよ!?」
 すぐさまインカムを取り、サガトに話かけるが・・・
『・・・・・』
 応答はない。小さなノイズが聞こえてくるだけだ。
「ちょっと!サガト!返事してってば!ホントヤバイってば!!」
 イーシャがそう叫ぶ間にも、その敵は鋼鉄の扉を叩き続ける。しかし、さすがに鋼鉄の扉だけはある。歪みはするものの、大きく壊れることはない。破られる可能性はゼロではないが、かなりの時間が稼げることは間違いないだろう。
『オレといるよりは安全』
 そんなサガトの言葉が脳裏をよぎる。確かに鋼鉄を叩いて歪めることが出来るようなヤツの相手など出来るはずもない・・・。
「ホント・・・ジョーダンじゃないわよぉ・・・!サガト!返事してってば!」
 半泣きになりながらインカムに叫ぶが応答はない。まさかホントにコイツに・・・・
「・・・・?」
 と、急に扉を叩く音が止む。先ほどまでの音がウソのように静寂が訪れる。
「・・・ど、どゆこと・・・?」
 まさかサガトが来て倒したのだろうか?それともラウル?いや、それにしてはあまりに静かすぎる・・・。
「・・・・・」
 銃を構えながらゆっくりと扉に近づく・・・。聞こえるのは自分の足音だけ・・・頬を汗が伝う・・・まるで時間が引き延ばされたような妙な感覚を覚える・・・・。
「・・・!!」
 次の瞬間、イーシャの動きが止まった。全身の毛が逆立つような怖気・・・。動けない・・・頭のどこかが警鐘を鳴らす・・・近づいてはいけない、と。
「な・・な・・・」
 強化ガラスの向こうに映るその敵の姿・・・それは人間に似ているようで非なる姿だった。
「ウソ・・・なんなワケよコレ・・・・」
 頭部と思しき所が横に一筋裂け、咆哮があがる。人間ではないソレが恐ろしい勢いでガラスに突っ込んでくる。
ガァン!!
「ひっ・・・!」
 空気がビリビリと震える。強化ガラスという名は伊達ではないらしく、ヒビすらも入っていない・・・・しかし、それでもイーシャは怯えきっていた。その恐ろしい姿に。
ガァン!!
 その怪物は異常に発達した怪腕を振るい強化ガラスを殴り続ける。まるで飢えた獣のように。
「イヤ・・・・イヤ・・・・なんなワケよコレ・・・イヤ、助けて・・・いやだぁ・・・!サガトぉ!!」
 イーシャが今にも泣きそうな顔でインカムに叫んだ。
by eternal-d-soul | 2007-11-08 02:12 | 連載小説:近未来新都心