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管理人山猫礼と副管理人ユースケによる小説と絵のブログ 毎週水曜更新b


by eternal-d-soul
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近未来新都心 Chapter02 NO.08

翌日・・・
経済区第1セクション ユニオンビル 警備部隊第6課メインオフィス・・・
PM1:12・・・・

「しかしまぁ参ったよ・・・」
 ウォルスの正面に座るサガトはラーメンドンブリを片手に呟いた。
「ははは、確かに。とんだ災難だったな」
「まったく・・・」
 サガトがラーメンを一口すする。
「まぁしかし・・・さすがに君と言ったところか?転んでもただで起きないというかね」
 ウォルスは言いながら笑った。
「やられっぱなしじゃカッコつかないしな・・・・」
 そう言ってもう一口すする。
「別にとぼけなくてもいいんだぞ?」
「何を?」
 サガトの動きが止まる。横目でウォルスを見る。
「君が用事もなく私の所にくるはずがないだろう?それに、どうにも事が上手く運びすぎてる。君の思惑通りなんだろ?」
 サガトはニヤリと笑った。
「さぁな・・・。まぁでもお前も良かっただろう?スザンヌが違法な情報取引をおこなっていた裏が取れてさ」
「だからだよ。状況があまりにも出来すぎてる・・・それで、私に何の用があってきたんだ?」
 ウォルスにはおおよその検討はついているのだろう。サガトもそれを察して口を開いた。
「それがな・・・」

経済区第1セクション ユニオンビル 1階中央エントランスホール

 エントランスホールの中央付近、大きな観葉植物の根本・・・そこにあるベンチに少年と少女が座っていた。遠目に見ればカップルにも見えるだろうが、場所が場所だ。それに二人の表情もとても恋仲には見えない。仏頂面の銀髪の少年と、むくれ顔のピンク色の髪の少女・・・互いに顔さえ見ようとしない。そのあまりに気まずい雰囲気に近づくものすら居ない。
「よ、随分楽しそうだな」
 一人を除いては。
「そう見えるワケ?」
「結構な」
 その唯一の男、サガトがピンク色の髪のイーシャの横に腰を降ろした。
「そんで?アタシに何の用なワケ?大体こんな仏頂面と一緒に待たせるなんて・・・ナニ考えてるワケ?」
「まぁ俺の商談に首つっこませるワケにもいかなしな」
「何の商談だか・・・そんで、どうやった、あんど、どういうつもりなワケ?」
「なんの話だ?」
「トボけんじゃないわよ。どうやってアタシをブタ箱から出したワケ?」
「惚けてなんかなんかないだろ?ホラこれだよ」
 サガトは懐から一枚のカードを取り出してイーシャに渡した。
「ん?これは・・・」
 ブルーのラインで縁取られたアイボリー色の半透明のカード・・・それにはバーチャルグラフィック技術で浮き出る特殊な写真が添付されている。そこにはイーシャの姿が描き出されていた。
「フリーターの付属証明証さ。そこに書いてあるフリーターが第六部隊に登録されている付属フリーターである証明だ」
「ハ?」
 イーシャがサガトの顔を覗きこむ。イーシャはフリーターになった覚えもなければ、ましてや第六部隊付属のフリーターになった記憶なぞ一切ない。だとすれば残っている可能性は一つだ・・・。
「アンタ・・・まさか偽造?」
 サガトがガクっと頭を垂れる。
「んなわけないだろ・・・大体、それが偽造出来ないくらい知ってるだろ?」
「知ってるわよ!それくらい!!でも・・・そうでもしないとどーやって作ったってゆーワケよ!?」
「普通に作ったのさ。警視総長殿にお願いしてね」
「け、警視総長!?」
「ああ。アイツには幾つか貸しがあるしな。それに、お前の端末から入手した企業の裏帳簿やらなんやらも摘発に役立つ・・・いわば裏取引ってわけさ」
「裏取引ってアンタ・・・」
 裏取引・・・それは重大な違法行為だ。そんな言葉をさも当然であるかのようにサラリとサガトは言う。
「まぁそういうことだ。付属フリーターには幾つかの特権も与えられてる。今までお前がやってきたことは“摘発のための情報収集”を“フリーターという身分を隠しておこなった”っていうことで不問とする・・・そういうことさ」
「・・・アンタ相当なワルね」
「お互い様だろ?」
 サガトが不敵な笑みを浮かべた。
「それで、そこまでしてアンタがアタシを助けたのはなんで?それに、どうやってアノ時この銀髪をアタシのトコに来させられたワケ?」
「・・・ラウルだ」
 ラウルが仏頂面でそれだけ呟く。
「うわ、暗!」
 イーシャが妙に大仰なリアクションでラウルから離れる。当のラウルは意に介さず、といったところだが。
「そう言ってやるな。ラウルをお前の所に行かせたのは俺への監視があまりに厳しかったからだ。対してラウルはこの通り元々無口なヤツだ。俺の車に乗ってるのまでは気づいただろうが、そこから先一緒に行動してるかどうかまでは分からなかっただろう?」
 イーシャがふと首を傾げる。
「と、途中から乗ってなかったワケ!?」
「そうだ」
「な・・・」
 イーシャが愕然とする。もともと誰かがサガトと一緒に車に乗っていたのは気づいていたが、まさか途中から居なくなっているとは・・・。
「結構危険な賭けだったが、そうでもしないとお前の牙城を突き崩す事は出来なかっただろうしな」
「それにしたってどうやって・・・てか、コイツも影薄すぎ」
 ラウルが少しだけ落ち込んだ雰囲気になる。
「影が薄い・・・そうかもな」
 サガトが笑う。
「まぁそれはいいとして・・・。お前は俺の手口まで知ってた・・・あの中にあるプログラムには気づかれてないはずなのに、だ。としたら方法は限られてくる。ネットワークに繋がっている端末で、尚かつあそこの店主が関係していない機器・・・となると残りは限られてくる。せいぜい監視カメラ程度のモノだ。そこまで分かれば後は時間との勝負だ。お前がまだあの経香店を覗いてる間に・・・それも比較的注意が俺に向いてるスキをラウルを使って突くしかない。簡単じゃなかったが、俺の時間的な目測に誤りはなかったみたいだし、パイルバンカーの方も上手く動いてくれたらしいからな」
「・・・・」
 侮っていた。コイツ、たまたま上手くいっただけかと思っていたらとんでもなかった。あの短時間、しかもかなり追いつめられているあの状況でそれだけの判断を下せるとは・・・しかもあの銀髪任せで成功するか失敗するかも分からない賭けをいとも容易くやってのける・・・その度胸もとんでもない。
『コイツ・・・何者なワケ・・・?』
「まぁ、お前が例の男に銃突き付けられて行動不能になってなければあんな短時間で辿りつけなかっただろうけどな。あのお陰で俺も自由に行動出来るようになったしな」
「・・・大したモンね」
 イーシャは素直に感嘆した。今までネットワーク技術に関しては最強のつもりでいたが、コイツの話を聞いてまだまだだと分かった。技術では負けていないだろう。だが、この度胸と判断力、そして行動力では全く敵わないだろう。
『まさかこんなヤツがいるとはねぇ・・・』
 それにしても腑に落ちないことが一つだけある。それは・・・
「んで、そこまで苦労させられといて、そんでもアタシを助けるなんて・・・どういう事なワケ?」
 そう。こんなに苦労させられて、その上に裏取引までやって自分を救う意味がどこにあるのだろうか?牢屋に入るどころか、殺されたって文句を言えないのは自分のはずだ。一体この男に何の得があるのだろうか?
「理由か・・・そうだな、お前を仲間に引き入れたいから・・・ってことだ」
「へ?」
 一瞬思考が停止する。仲間に引き入れたい・・・?
「へ?じゃないだろう。始めにスザンヌからの依頼を受けたときからそのつもりだったしな・・・。もっとも、俺の端末が乗っ取られるのは少々予想外だったが・・・でもそれでさらにお前を仲間にしたくなったよ」
「な、なに言ってるワケ!?」
 イーシャが思わず立ち上がる。
「アタシはアンタをハメようとしたワケよ!?そんなヤツと組むつもりなワケ!?」
「そうだ」
 イーシャの慌て振りをみても、なおサガトは冷静にイーシャを見る。その瞳には確かな光が宿っていた。
「・・・本気なワケ?」
「そうだ。それにお前の端末の中身を覗いたが・・・どうやら噂通りの義賊らしいしな。俺の考えは大筋の所で当たってた・・・俺の判断は変わらないさ」
「・・・・」
 しばらくの沈黙、イーシャはボリボリと頭を掻いて、そして「ふぅ」っとため息混じりに笑った。
「まったく・・・どうしようもないヤツねアンタも・・・いいわ、さすがにここまでされて仲間はイヤーって言うのも恩知らず過ぎでしょーしね」
「それじゃ、商談は成立かな?」
「OK、バッチシ仲間になってやろーじゃないのよ」
 イーシャが両腕を組んで「ふん!」と言いながらふんぞり返った。それから腰に手を当てるとサガトに視線を向けた。
「アタシはイーシャ=ネフィレシュア、アンタは?」
「知ってるだろうが、サガト=カシムラだ」
 サガトが立ち上がって右手を差し出す。イーシャは一瞬戸惑ったが、その手を元気よく・・・少々元気すぎた気もするが・・・握りかえしてブンブンと大きく上下に振った。
「よろしっくー!!」
「・・・・・」
 ウルサイヤツが増えたものだ・・・その光景を横目に見ながら、ラウルは一人そう思った。


End and to the next chapter・・・・・
by eternal-d-soul | 2007-07-05 02:52 | 連載小説:近未来新都心