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管理人山猫礼と副管理人ユースケによる小説と絵のブログ 毎週水曜更新b


by eternal-d-soul
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近未来新都心 Chapter01 NO.10

南部工業区第3セクション バルベガインダストリー工場・・・・・
PM6:50・・・・・

 ・・・・まずい事になった。とてもまずいことに。監視カメラに写る二つの影・・・間違いない。あいつらだ。どうしてここが分かったのだろうか?・・・調べたらなんのことはない。バルゼウスのプロトタイプの背中に発信器を撃ち込まれていた。そういうことだ。気づくのが遅すぎた。どうやら第三部隊も動いているらしく、もうここから逃げることは出来ないだろう。
「いいさ・・・ここでケリをつけてやる・・・」
 ヘンリーは手元のコンソールを軽く叩く。小さな駆動音、機械に息が吹き込まれる音・・・。
「クク・・・・ククク・・・」
 ヘンリーはくぐもった声で笑った。

『聞こえるか?ラウル』
「ああ・・・」
 バイザーから聞こえるサガトの声に小さく返事をする。
『おっさんがやってくれたらしい。第三部隊が動き始めてる』
 バイザーの端にサガトから送られてきた画像が表示される。そこには警備部隊の本部から発進していく10数台もの装甲車の姿が映し出されている。
「・・・」
『俺らもそろそろ突入するぞ。おっさん達がくる前に決着をつける』
「わかった」
 ラウルは頷くと、腰に固定してるナイフを引き抜いた。
『と、言いたいところなんだが・・・さっきから中を探っているがジャミングが強すぎて見えない・・・中にいるのは三機のはずなんだが、不確定要素もあるしな・・・正直突入はかなり危ない』
「・・・問題ない」
 ラウルは静かに呟く。バイザーの向こうからサガトが呆れたようなため息をつく音が聞こえた。
『ま、そう言うと思ったけどな。だが、油断はするなよ』
「分かってる・・・」
 
 音が聞こえる・・・足音だ。だんだんと近づいてくる・・・
『そうだ・・・そのまま来い・・・!』
 ヘンリーが口の端をつり上げて笑う。強度のジャミングをかけているため建物内部のカメラは使い物にならないが、音を拾うのならば大きな問題にはならない。指向性を有した特殊なマイク・・・それが拾う音はまるで直に耳で聞いているかのようにリアルだ。だが、相手にこのような特殊装備はない・・・外の監視カメラの映像を見る限りではそんなものは持っていなかった。強度のジャミングと完全に照明が落とされた構内は相手にとっては目隠しをされたのと同じ状態だ。『耳』を持っているこちらが圧倒的に有利・・・!
『バカめ・・・出てきた瞬間に撃ち殺してやる』
 足音がいよいよ近づく・・・間もなくだ。
『さぁ、こい!!』
 ヘンリーは嬉々とした顔でスクリーンを凝視した。超高感度の暗視カメラが一つの影を映し出す。ヘンリーが猟奇的な笑いを浮かべた。・・・・今だ!!
 一斉放火が始まる。雷鳴にも似た爆音を轟かせて大量の銃弾が放たれる。目標が存在する地点に次々に着弾して火花をちらし、暗視カメラを白く染める。その振動は凄まじく、構内全体がまるで地震が襲ったかの用に揺れる。
 やがて1マガジン撃ちきったところで銃撃が止む。急激に静かになった構内・・・カラカラと薬莢が転がる音だけが響く。
『くくく・・・ざまぁみろ・・・!!!』
 ヘンリーが暗視モードをオフにして構内のライトを点けた。カメラを煙で曇る着弾点に向ける。
『・・・!?』
 だが、そこには人の姿は無かった・・・血の跡も。あったのは・・・
『じ、自走ロボット!?』
 そこに転がっていたのは無惨に破壊された二足歩行で駆動する小型のロボット・・・
「こっちだ」
『!?』
 ヘンリーが振り返る。それは、遅かった。
 一瞬でヘンリーが乗る以外の2機のHSN、バルゼウスが破壊される。
『えっ!?』
 ヘンリーが声を上げる前に1機は銃弾を大量にたたき込まれ、もう1機は前面をナイフで大きく切り裂かれて、床に倒れ伏した。動揺するヘンリーを前に、サガトが銃口から硝煙の立ち上るマザロスのマガジンをゆっくりと交換する。
「意外にあっさり済んだな」
「ああ・・・・」
 ラウルが小さい声で返事をした。
『ば、ばかな!?何故攻撃できる!?ソイツらには人が・・・』
「乗ってない・・だろう?」
『な!?』
「何故それを・・ってまぁどうでもいい話だ。アンタの所から抜いたデータで完成型は完全自立行動の無人機だってことは分かってたんだよ」
『あ、あの短時間でデータを抜いたのか・・・!?』
 複雑なプロテクトを施していたはずなのに・・・
 サガトはスライドを引いて初弾を装填すると、マザロスの銃口をヘンリーが乗る残った一機のバルゼウスに向けた。
「まぁ、難しい話は留置場ででもゆっくり話してやるよ。無駄な抵抗はやめとけ」
『く、くそ!!』
 駆動音が構内に響き、天井に設置されているハンガーのロックがはずれて5機のバルゼウスが降ってきた。5機は着地すると、二人に銃口を向けた。
『これでどうだ!』
「やっぱりここにあったか・・・」
『え?』
 ヘンリーが驚きの声をあげる。
「バウサーが裏ルートで5機流れてるのは確認してた・・・ここにあるだろうってのは予想済みのことさ」
『そ、そんなところまで・・・!?』
 サガトはサングラスを軽く持ち上げた。
「だから呼んだんだよ」
 壁が吹き飛ぶ。そこから強化服と大型のアサルトライフルで武装した十何人もの警備部隊の人間が銃を構えて構内に突入し、5機のバルゼウスに向かって一斉に銃弾を放った。火花が散り、爆音をあげながら5機のバルゼウスはその場に崩れ落ちた。
『な、なにっ!?』
「良いタイミングだったみたいだな」
 ジェインがタバコを口にくわえて、アサルトライフルを構える警備隊員の後ろから姿を現した。
「ああ、さすがオッサン」
 サガトがハンドサインで相槌を打つ。
「ふん、取り押さえろ!」
 ジェインの言葉に警備隊員達が一斉に動き、ヘンリーが乗るバルゼウスに銃口を向け、その行動を制限する。いかにバルゼウスが優れていても一機でこの人数を相手には出来ないだろうことは明らかだ。
『く、くそ・・・』
 ヘンリーは悪態をつくとそのまま大人しくなった。ジェイン達第2部隊が大捕物を演じている間にサガトは一人構内に設置されているコンピューター端末の前に向かっていた。
「さてと・・・」
 サガトはベルトに固定してある小型コンピューター端末から端子を取り出すとそれを構内の端末に繋いだ。すぐにいくつかのプログラムが起動して端末内のデータを検索し始める。
「相変わらず頑丈なプロテクトだな・・・」
 サガトがさらに高度の検索をかけようと腰の端末に手を伸ばしたそのとき、
ビクン・・!
『ガァアアアアアア!』
「!?」
 絶叫が構内に木霊する。声の主はヘンリーだった。周りを取り囲んでいた警備部隊を蹴散らしてサガトに向かって走ってくる。
「くそ!撃て!」
 警備隊員達が銃を構えて一斉射撃を開始する。が、それが着弾する寸前でヘンリーは大きく飛んだ。
「!?」
 その動きに警備隊員達の動きが鈍る。ヘンリーは飛び上がったまま身体を回転さえて体勢を変えると右手と左手に装備されたマシンガンを同時に放った。絶叫があがり数名の隊員がその場に倒れ伏す。
「なに!?」
「部隊を下げろジェイン!」
 サガトはマザロスを構え直すと、ヘンリーの着地の瞬間を狙い引き金を引いた。普通ならば回避出来ない瞬間・・・だがヘンリーはそれを寸でのところでかわし、凄まじい速度でサガトにタックルをあてた。
「ぐあッ!?」
 回避を満足にすることが出来なかったサガトは吹き飛ばされてそのまま壁に激突した。全身に激痛が走り、肺が圧縮され空気が押し出された。すぐさま反撃をしたくとも身体が言うことを聞かなくなる。そんなサガトに向かってヘンリーの走るスピードを乗せた拳が飛んでくる。
『まずい・・!?』
ガァアアアン!
「ラウル!?」
 その拳を受け止めたのはラウルだった。ラウルはそれを弾くと、追撃を重ねる。二本のナイフを隙なく連続でヘンリーに打ち込む。が、その全てが受け流されるように弾かれていく。以前の動きとは比べモノにならない。信じられないほど強い・・・この強さは・・・・。
「・・・!」
 ラウルに焦りが生じる・・・ヘンリーはその瞬間を見逃さなかった。左足でコンクリートの地面を強く叩く。バルゼウスの力で砕かれたコンクリートが飛び散り、粉塵となってラウルの視界を奪う。ヘンリーは残った右足で地面を蹴ると、低空で後ろに飛びながら銃弾を放った。
「!?」
 対応が遅れる。ラウルが立っていた場所に破片が舞い上がり姿が見えなくなる。
「くっそ!」
 サガトはようやく動くようになった身体で立ち上がると、ヘンリーに近づきながら引き金を引く。だが急所を狙っていないそれらは一定のダメージを与えることはできたが、ヘンリーを止めるには至らない。
「だめか・・・!?」
 だが相手に躊躇はない。サガトにバルゼウスの銃口が向く。
「!」
「撃て!」
 耳をつんざくような轟音とともにバルゼウス・・・ヘンリーの背中に大量の銃弾が撃ち込まれる。ヘンリーが身体をガクガクと痙攣させながら地面に転がった。コンクリートの灰色に深紅の血が広がっていく・・・。
「おっさん!?なんで・・・」
「殺さなければ・・・こちらがやられる」
 ジェインが厳しい表情で呟いた。
「・・・くそ」
 サガトが苦々しい顔で舌打ちをした。
『ガァアアアアアア!!!!』
「!?」
「!?」
 血に塗れたバルゼウスが怒号とともに立ち上がる。背中に空いた銃創から血がなお滴る。動ける状態ではない・・・はずなのだが、それでもヘンリーは立ち上がり動いている。
「馬鹿な・・・・」
 ジェインが呟く。バルゼウスの銃が火を噴いた・・・・
by eternal-d-soul | 2007-02-14 01:45 | 連載小説:近未来新都心