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管理人山猫礼と副管理人ユースケによる小説と絵のブログ 毎週水曜更新b


by eternal-d-soul
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近未来新都心 Chapter01 NO.03

「奇襲とは良い趣味してるな・・・!」
 黒髪の男が瞬時に狙いをつけ引き金を引く。セミオートで三発の銃弾が放たれる。が、それが着弾するよりもはやく犯人が動く。
「さすがに速いか・・・!?ラウル!」
 その声に無言でラウルが動く。犯人に匹敵するほどのスピードで距離を詰めると、大振りのナイフを犯人の頭部目掛けてたたき込んだ。
ガキン!
 犯人はそれを腕一本で受け止める。そのまま腕を大きく振り、ラウルをはね飛ばす。続くように黒髪の男が引き金を引く。犯人はそれを装甲の厚くなっている左腕の甲で弾く。さらにラウルは着地のスピードをそのまま反発に変え、怯むことなく再び犯人の懐に切り込む。
『オオオ!』
 犯人が鋼鉄のヘッドカバーを通してうなり声を上げる。放たれたラウルの一撃が犯人の腹部の装甲を切り裂いた。重大な一撃にはならなかったが、それでもHSMの一部が傷つけばその性能は低下する。ラウルは続けざまに攻撃を繰り出す。
「おい!ラウルまて!」
 しかし、声は遅かった。連続の攻撃にスキの生まれたラウルに犯人の拳が伸びる。防げる位置ではない。
「ぐぅ・・・!」
 ラウルはナイフの刀身でその一撃を受ける。直撃は避けるが、その攻撃は体の小さいラウルを易々と吹き飛ばし、壁に叩きつけた。
ドン!
 壁に身体がぶつかる鈍い音、犯人はそのチャンスを逃さない。今ラウルを吹き飛ばしは方向に右手を向ける。その右手の上部には40mmの機関砲が装備されていた。
ガガガガ!!
 フルオートで銃口から吐き出された弾丸はあらぬ方向の壁にあたり、当たった部分を粉々に粉砕した。
「やらせねぇよ」
 黒髪の男が飛ぶ。ラウルほどスピードはないが、それでもかなり速い。彼が地面を蹴るたびに瓦礫が後ろに吹き飛んでいく。彼が履いている靴は高い瞬発力を与えてくれるHSM・・・通称「ブースター」だ。犯人は目標を黒髪の男に変える。銃口を向け大量の銃弾を男に向けて放つ。それに併せて黒髪の男も引き金を引く。犯人が打ち出したそれはことごとく軌道を逸れ男の後ろの壁を破壊するだけだ。
「どんくさいな!」
 黒髪の男の銃が火を噴く。同時に犯人の右腕が大きく跳ね上がり、そのままだらんと、下に垂れて動かなくなる。見ると犯人の右腕の至るところに銃弾が当たった跡が残っていた。
『オオウ!?』
 犯人が驚いたような表情を見せる。そう、黒髪の男に先ほどから弾が一発も当たらないのは彼の銃弾がすべて犯人の腕に命中しその照準を逸らしていたからだった。
「そんなモン着込んでるから気づかないんだよ。なさけねぇ・・・・・」
『ゴオオオオ!!』
 犯人が聞き取れない言葉で唸り声を上げる。残った左腕の甲の取り付けられた刃を振り上げて黒髪の男に迫る。
「言ってるだろ・・・どんくさいんだよ」
 黒髪の男が二回引き金を引いた。放たれた最初の弾丸は犯人の左腕を突き、そして二発目はこの手のHSMの最大の弱点と言われる腰部に命中した。犯人は大きく前のめりになると、そのままの勢いで瓦礫に中に突っ込んだ。
ガァアアアン!!!
 瓦礫がはじき飛ばされ、宙を舞う。身体を半ばほどまで瓦礫に埋めた犯人はそのまま動かなくなった。先ほどまで騒音に満ちていた工場内に静けさが訪れる。
「機械なんか動脈をブチ切っちまえばなんてことない・・・ただの鉄屑なんだよ」
 黒髪の男はバイザーを外し銃を腰のホルダーに固定すると相棒が叩きつけられた壁のほうに向かった。
「おい、大丈夫か?」
 そこには頭を抑えて唸るラウルが居た。少し拗ねた表情をしているように見える。
「ほら、さっさとここ出ないとあのオッサンらが突っ込んでくるぞ」
 黒髪の男が差し出した手をラウルはしぶしぶ握り、引き起こされた。その服のあちこちが裂け所々血が付いているが、どういうワケかその下の肌は白く綺麗でどこにも傷は見あたらない。
「お前、あの鉄屑持ってこいよ」
「なんで・・・・」
 ラウルが黒髪の男を睨む。
「お前が勝手にはしゃいでミスした罰だ。軽いもんだろ?優しい俺に感謝しろよ」
 それはとても納得のいくモノでは無かったが、ミスを犯したのは事実だ。ラウルは小さく唸ると今し方倒された鉄屑のもとに向かい、その足を掴んで瓦礫から引きずり出した。腰部に搭載されている動力部から各部に伸びるライン・・・その基幹部、動脈とも言えるメインラインを破壊され、犯人のHSMはその機能を完全に停止させていた。数トンの力を発揮する機械も、その機能を停止すれば人間を縛るただの鉄屑と化す。ラウルは特に興味がなさそうにズルズルとその人型の鉄屑を引きずって外に向かった。その姿を確認した黒髪の男はバイザーのマイクの周波数を外で待機する警備隊の使用する周波数帯に合わせた。
「あー、こちら警備部隊第6課付属、フリーター、サガト=カシムラ。目標の活動停止に成功、今から外に持ってくからトレーラーでも持ってきときな」
 と、一方的な報告が終わった黒髪の男、サガトの足下にさきほどの子犬がすり寄ってきた。
「お前も災難だったなぁ・・・・」
 サガトはその子犬をひょいと抱え上げると鉄屑を引っ張るラウルと共に外に出た。

 時は過ぎた。際限なく使われ続けた資源、人々がその深刻な問題に気づいたとき、全ては遅すぎた。「環境破壊」・・・その言葉は想像よりも遙かに大きな意味を持つことになった。地球規模での天変地異、60億を数えた人類はその数をわずか5億に減少させた。やがて天変地異は去り、地球は穏やかさを取り戻した・・・しかし、地球環境の変化は人類にはあまりに過酷なものだった。人類達は残された肥沃な大地を求め、争いを繰り返した・・・結果全人口は1億にまで激減することになった。種の存続すら危なくなった人類はいくつかの大企業が連合体となり、新たな都市国家を築く「カントリー」・・・国と名付けられたそれは巨大なドームのような都市だった。人類は残された僅かな大地にカントリーを築き、その中に昔の地球を再現した。
 それはいくつかの限られたドームしか存在しない世界・・・政府体制が崩壊し、企業が自由意志という名の下に実権を握った世界・・・「近未来新都心」・・・
by eternal-d-soul | 2006-11-08 02:34 | 連載小説:近未来新都心