管理人山猫礼と副管理人ユースケによる小説と絵のブログ 毎週水曜更新b


by eternal-d-soul
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カテゴリ:連載小説:近未来新都心( 29 )

「う・・・くっ・・・!」
 酷く痛む頭を押さえながらサガトが身体を起こした。
『生きてる・・・?』
 身体は思うように動いてはくれないが、どうやら生きているらしい。・・・もっともそう簡単には死ぬはずもないが。
「・・・ここは?」
 まだ痛む身体を引き起こして辺りを確認する。壁沿いに並ぶ棚の数々・・・中には何かの薬品の瓶が並んでいる。どうやらどこかの部屋に放り込まれたようだ。
「ご丁寧なことだ・・・」
 わざわざ倒してからこんな所に放り込むとは、律儀なヤツもいたものだ。それとも元から殺すつもりがないのか・・・・。
『助けて!助けてよぉ・・!』
「イーシャ!?」
 通信機から今にも泣きそうな声が流れてくる。
『さ、サガト・・・?』
「どうした!?なにがあった!?」
 しばらくの沈黙・・・通信機の向こうからは妙な振動音だけが聞こえてくる。
「おい!?イーシャ!?イーシャ!!」
『あ・・た・・・』
「どうした!?おい!!」
『あんた!さっさと助けにきなさいよぉぉおおおおお!!!』
 通信機からビリビリという音を響かせながらイーシャの絶叫が流れた。あまりの音量に耳が一瞬聞こえなくなる。
「・・・そんだけ元気ならどうやら無事らしいな」
 とりあえずは安心する。どうやらあの場所に残してきたのは間違いではなかったようだ。自分と行動していたら今頃どうなっているか想像するのも恐ろしい。
『ナニ悠長なコト言ってるワケよ!?さっさと助けに来なさいっての!!』
「と、言われてもな・・・・」
 目の前にある扉・・・なりはごく普通に見えるが・・・・。
「くそ!」
 拳を叩きつけて分かる。分厚い鋼鉄製だ。何の目的でこの保管庫にこれほど厳重な扉が設けられたかは分からないが、この厚さでは拳銃でも破壊することは容易ではないだろう。ましてこの狭い部屋で爆薬は使えない・・事実上ここから出るのは不可能に近い。
『ちょっと!ホントやばいってのよ!なんなワケよ!?このバケモノは!?』
 イーシャの声はもはやパニックに近いものとなっている。声が聞こえている限りイーシャは無事だろうが、今イーシャを襲っているのが自分を倒した相手だとして、あの部屋も長くは保たないだろう。早くここから出なくてはいけないのだが・・・・。
「くそ・・・!!」
 どうやら八方塞がりというヤツらしい。それにあまりに相手の情報が少なすぎる。イーシャの慌て様、そして自分に気づかれず接近して倒した相手・・・恐らく人間ではないだろう。この施設を見る限りはその仮説の方がよほど納得がいく・・・いや、それも問題なのかもしれないが。
「どうすれば・・・」
ヴゥン!
「!?」
 モーターが動き出したような低い音が室内に響き、室温が急激に下がり始める。
「凍死させるつもりか・・・!?」
 どうやらここの保管庫には冷凍機能までついているらしい。この分厚い鋼鉄製の扉も急激な温度変化に耐えるためや、保温効果を高めるためのものらしい。
「ラウル!おい!ラウル聞こえるか!?」
 マイクに向かって叫ぶがラウルからの返事はない。この状況下でラウルが返事をするとは思えない。だが、もしここでラウルと連絡が取れなければ・・・・。
「おい!ラウル!!」
 だがやはりラウルからの返事はない。ここまで呼びかけても返事がないのならば、恐らく回線を閉じているのだろう。最悪の場合もう倒されてしまったか・・・。
「・・・仕方ないか」
 どうやらもう他に打つ手はないらしい。これを使うのだけは控えたかったのだが、やむを得ないだろう。仲間を一人犠牲にするくらいならば、幾らマシだろう。通信機の回線を切り、静かに眼を閉じる。
「許してくれ・・・・っていうのは無理な相談か・・・」
 サガトの右手が硬く握りこまれる。部屋の気温が上昇し始めた。

「ちょっとコラ!なにやってんのよ!?」
 インカムから、ぼそぼそとサガトの声が聞こえた後、通信が一方的に切られてしまった。サガトと通信が繋がったことでいくらか冷静を取り戻したイーシャだが、未だに状況を把握しきれない。相変わらずアイツは強化ガラスを破ろうとしているし・・・
「ん?アレ?」
 ソレが動きを止めていた。その小さな眼らしき器官が何かを探すかのようにグルグルと動き回っている。
「な、なに・・・?」
 いつの間にか強化ガラスには大きなヒビが入ってしまっている。体当たりを受ければすぐにでも壊れてしまいそうだ・・・だがヤツは動かない。何故?やがてソレは咽を鳴らすような音を出して驚くべき速度で走り去っていた・・・・。
「どゆこと・・・?」
 イーシャが困惑する中、ついに足音まで遠くに聞こえなくなっていった。

ガァアン!
 まるで何か硬い物が弾けるかのような音が地下構造体内に響き渡った。白煙に霞むその場所に僅かに光る紅いライン・・・。
「ふぅ・・・っとやりすぎたかな?」
 白煙の中から現れたのはサガトだった。先ほどまで閉ざされていた鋼鉄の扉は廊下の反対側の壁に叩きつけられ、転がっていた。鋼鉄製であるはずのその扉が、何か巨大な力によってねじ曲げられたかのように変形してしまっている。
「と、急がないとマズイな・・・」
 サガトは少し変形してしまったマザロスを拾うと、イーシャを残してきた部屋に急いだ。

「サガト!」
「イーシャ・・?」
 サガトがイーシャを残してきた部屋に戻ると、イーシャがその入り口で佇んでいた。
「大丈夫なのか?ヤツは?」
「知んないわよ、どっかいっちゃったワケよ」
 イーシャはふて腐れたように、そっぽを向いた。
「どこかにいった?どういう事だ?」
「こっちが聞きたいっての!まったく、アンタはいきなり通信切っちゃうし・・・マジでビビったんだからね!」
「ちょっとな・・・悪かったよ」
「ぬー・・・・」
 適当にあしらわれた感じがあるのがどうにも気に食わないが、とりあえずこれで安全は確保されたのだから文句も言えないだろう。
「それにしても何処に・・・・」
 気配もしない、音も聞こえない・・・ヤツが何処に行ったのか二人には見当もつかない。
『サガト・・・・』
「!?」
 そのとき、サガトの通信機から僅かに声が聞こえた。
「ラウル!?」
『奥・・・培養・・・・ブロック・・・』
「なんだ!?おい!ラウル!?」
 何故か通信機から流れてくる音声は途切れ途切れで聞き取りにくい。不鮮明な幾つかの単語だけを残してラウルからの通信は途切れてしまった。
「培養・・・ブロック・・・?」
 イーシャが首を傾げる。名前の通りだとするならば、細菌などの生命体を育てるための区画なのだろうが・・・。
「培養ブロックか・・・」
 サガトが、ふっと黙り込む。
「どしたの?」
 何か思惑を巡らせているかのように視線が一点に固定されて動かなくなる。
「そうか・・・イーシャ、ここの構造図は手に入ったか?」
「え?一応は・・・」
「そいつを見せてくれ」
「ちょと待って」
 サガトに言われるままに部屋に戻りコンソールを操作する。するとすぐに地下構造体の構造図が表示された。
「まだLv4のセキュリティーまでは突破してないから、最重要施設がどれかとか、どこがナニを研究してたかまでは分からないけど・・・」
「いや十分だ・・・」
 サガトはそれを頭に叩き込む。そして自分が今まで通ってきた通路の配置や配管の流れと照らし合わせていく・・・。
「よし、いくぞイーシャ」
「え?ちょ、どこにいくってのよ!?」
 この手の施設の構造は大体一致している。危険薬品の保管庫、電源の配線、そして薬品の導管の流れ・・・それらの構成が構造体のどこにどのような施設があるかを想像させてくれる。
「ラウル・・・」
 無事ならばいいのだが・・・。ここで行われていたこと考えると、サガトはその不安を拭いきることができなかった。
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by eternal-d-soul | 2008-01-17 20:18 | 連載小説:近未来新都心
「ちょっと、どうしたのよ?」
 妙だ。何かが妙だ。先ほどサガトとの回線が開いたままになっているスピーカーから小さなノイズが聞こえた。最初は気にもしていなかったが、それ以来サガトとの通信が不可能になってしまっている。
 ここの情報もLv3というのに区分されている所まではハッキングすることが出来た。しかしその先のLv4という最終レベルへのハッキングがなかなか成功しない。Lv3までと違い極端にプロテクトが強固になっている。自分のコンピューターがあればハッキングプログラムで易々突破出来そうだが、生憎手元には簡単なプログラムを詰め込んだ端末しかない。おまけにここのネットワークがインターネットと完全に切り離された、イントラネットで形成されているせいでツールのダウンロードも難しい。
とりあえずLv3までで得られたデータによればここは遺伝子の研究を行っていたナイアーズケミカルの極秘研究部門らしい。搬入されている薬品やら工具やらからとても真っ当な研究をやっている様子ではなかったが・・・。
「ひょっとしてソートーマズイ状況なワケ・・・?」
 まさかあのサガトが倒された?そんなはずは・・・
「ないわ・・・よね・・・・?」
 そんなことはない・・・そう言い聞かせるが悪い方にばかり考えが向いてしまう。サガトが言っていた通りここは到底マトモな所ではない。何が起こるかすらも分からない。そんな場所でラウルばかりかサガトまで居なくなった・・・そうなると自分はこの怪しい気なところでひとりぼっち・・・
「・・・・」
 なんだか急に温度が下がったような気がする。
「そ、そんなワケないわよね!」
 と一人虚勢を張ってはみるものの、この重苦しい空気を拭いさることは出来ない。と、すれば自分に出来ることは一つ・・・。
「さっさとLv4突破してここのセキュリティー頂くしかないわね・・・」
 イーシャが作業に取りかかろうとしたそのとき・・・。
 ヒタ・・・
「・・・!?」
 足音・・・・?
 確かにそれは足音だった。何故か一回だけしか聞こえなかったが・・・それが余計にイーシャの不安を煽る。
「だ、誰・・・?サガト・・・?」
 デスクの上に置いた拳銃を手に取りながら立ち上がる。セーフティを外して初弾が装填されていることを確認する。ゆっくりとイスから立ち上がり、部屋の鋼鉄製の扉に近づく・・・。
「・・・・」
 扉の前に立つが、向こうに気配がない。不気味な沈黙・・・ひょっとして自分の空耳だったのだろうか?
「そ、そうよね・・・空耳よね・・・」
 イーシャが自らの心を奮い立たせて、仕事に戻ろうと踵を返した。
ドン!!
「ひっ!?」
ドン!ドン!ドン!!
 鋼鉄の扉の向こう側から何者かが扉を叩いた。それはノックなどという軽いものではない。わずか数撃で鋼鉄の扉が歪むほどの驚くべき力だ。
「な、ななな、ナニ!?」
 いきなりのことに一瞬思考が停止する。しかし、すぐさまそれが敵の攻撃であることが分かる。そして恐らく自分では対処しようがないことも。
「ちょ、ちょっと!サガトはナニしてるワケよ!?」
 すぐさまインカムを取り、サガトに話かけるが・・・
『・・・・・』
 応答はない。小さなノイズが聞こえてくるだけだ。
「ちょっと!サガト!返事してってば!ホントヤバイってば!!」
 イーシャがそう叫ぶ間にも、その敵は鋼鉄の扉を叩き続ける。しかし、さすがに鋼鉄の扉だけはある。歪みはするものの、大きく壊れることはない。破られる可能性はゼロではないが、かなりの時間が稼げることは間違いないだろう。
『オレといるよりは安全』
 そんなサガトの言葉が脳裏をよぎる。確かに鋼鉄を叩いて歪めることが出来るようなヤツの相手など出来るはずもない・・・。
「ホント・・・ジョーダンじゃないわよぉ・・・!サガト!返事してってば!」
 半泣きになりながらインカムに叫ぶが応答はない。まさかホントにコイツに・・・・
「・・・・?」
 と、急に扉を叩く音が止む。先ほどまでの音がウソのように静寂が訪れる。
「・・・ど、どゆこと・・・?」
 まさかサガトが来て倒したのだろうか?それともラウル?いや、それにしてはあまりに静かすぎる・・・。
「・・・・・」
 銃を構えながらゆっくりと扉に近づく・・・。聞こえるのは自分の足音だけ・・・頬を汗が伝う・・・まるで時間が引き延ばされたような妙な感覚を覚える・・・・。
「・・・!!」
 次の瞬間、イーシャの動きが止まった。全身の毛が逆立つような怖気・・・。動けない・・・頭のどこかが警鐘を鳴らす・・・近づいてはいけない、と。
「な・・な・・・」
 強化ガラスの向こうに映るその敵の姿・・・それは人間に似ているようで非なる姿だった。
「ウソ・・・なんなワケよコレ・・・・」
 頭部と思しき所が横に一筋裂け、咆哮があがる。人間ではないソレが恐ろしい勢いでガラスに突っ込んでくる。
ガァン!!
「ひっ・・・!」
 空気がビリビリと震える。強化ガラスという名は伊達ではないらしく、ヒビすらも入っていない・・・・しかし、それでもイーシャは怯えきっていた。その恐ろしい姿に。
ガァン!!
 その怪物は異常に発達した怪腕を振るい強化ガラスを殴り続ける。まるで飢えた獣のように。
「イヤ・・・・イヤ・・・・なんなワケよコレ・・・イヤ、助けて・・・いやだぁ・・・!サガトぉ!!」
 イーシャが今にも泣きそうな顔でインカムに叫んだ。
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by eternal-d-soul | 2007-11-08 02:12 | 連載小説:近未来新都心
東部工業区第2セクション ナイアーズケミカル 廃プラント地下構造体
AM00:25・・・・

『まずいな・・・』
 イーシャと離れてからしらばく・・・先ほどまで痛いほどだった殺気が消えている。
『殺気を消したのか・・・それとも』
 もし、自分から離れていたら?イーシャを置いてきた部屋はそれなりの・・・むしろ大仰な程の作りをしていた。そう簡単に破られることはないだろうが、裏を返すならばそれだけの設備が必要な危険がこの地下構造体には潜んでいるということにもなる。
「・・・・」
・・・いや落ち着かない理由はそれだけではない。ここに置いてある機材の数々・・・普段はまず見かけることのないそれらだが、それだけに過去の記憶を嫌でも思い出させる。
『忘れろ・・・』
 もう思い出す必要はない・・・ないはずだ。過去を消し去ったのは自分自身だ。あのときの事はもう関係ない・・・もう断ち切ったのだから。
「・・・・」
 噴出しかけた記憶と心の断片を無理矢理に深く押し込める。何度となくしてきた行為だが、いつも良い気分はしない。どんなモノであれ、それも自分自身に変わりはないはずなのだから。そしてその運命も・・・・
「・・・!」
 一瞬の殺気・・・だがそれはサガトを臨戦態勢にさせるには十分なものだった。油断なく周囲に気を張り、左手でナイフを右手でライフルを構える・・・。
『どこだ・・・』
 殺気は既に消えている・・・気配もしない・・・まだ近くに潜んでいる感じはする。だが、通常の感覚で方向や位置を捉えることが出来ないのだろう。
『何者だ・・・・』
 ここまで気配を消せる人間をサガトはそう多くは知らない。隠密任務を得意としているフリーターの中でもここまでの能力を持つ者は極僅かだ。
「・・・・・」
 空気が張りつめる。熱いように、そして冷え切っているようにも感じる。サガトの視線が周囲を巡り、僅かな変化でも感じ取れるように気を張る。
『どこからくる・・・・』
 予想は出来る。だが裏をかかれれば、命取りになる。故にサガトは感覚に頼る。五感を最大まで鋭敏にし、気配を感じ取る。
 時間がまるで引き延ばされたような錯覚を覚え始めたとき、それは起こった。
ヴォン!
「!」
 しまった・・・!
 サガトはその音を頭では何なのか理解していた。それは換気装置が定期的に駆動するときに出す独特の重低音だと。しかしそれに反して身体が反応してしまった。神経を鋭敏にしすぎた故にだ。瞬時に体勢を立て直すが、そのスキを敵が見逃すはずはない。
 何かが一気に近づいてくる感覚・・・・その感覚だけを頼りにマザロスをその方向に向け、引き金を引く。しかし、銃弾が放たれるより早く相手の一撃がマザロスごとサガトを吹き飛ばす。
「ぐっ・・・」
 壁に背中から叩きつけられ、鈍痛が走る。だが、それで止まるわけにはいかない。瞬時に相手の動きを計算し、こちらの次の手を考える。マザロスは恐らく今の一撃で使いものにならない可能性が高い。状態を確認しないままマザロスを捨てると、身体を横に回転させながらホルスターに固定していた拳銃を抜く。そして起きあがりざまに相手に向かって引き金を引く。
 一気に大量の銃弾が放たれる。マシンピストルと呼ばれるフルオート掃射の出来る拳銃だ。撃ちだされた合計15発の弾丸が敵に向かうが、相手はそれを易々とかわした。
「・・・!」
 配管の間を縫うように動くソレをサガトは捉えきれない。驚くべきスピードだ。恐らくラウルの身体能力にも遅れは取らないだろう。
「く・・・・」
 迂闊に配管を撃つ訳にはいかない。中には有毒な成分を含んだ液体や気体が通っている配管もある。ましてここの施設なら・・・・
「・・・・」
 そして敵の気配が消える。不気味な静寂がサガトの周囲に流れる。感覚を研ぎ澄ましても敵の気配を察知できない。一度姿を現した敵を見失うことなど普段の彼ではありえないことだ。
『ただ者じゃないってことか・・・』
 一度対峙したからこそ分かる。この相手は並の・・・いや例え上位のフリーターでも危険な相手だ。ケタ外れの運動能力を持ち、おまけに地の利は向こうにあるときている。まともに戦っても勝ち目は薄いだろう。
『どうする・・・一旦退くか・・・?』
 退く・・・といってもどこに退けるわけでもない。ラウルを探し出すまでここから退くわけにはいかない。それに狙われるならば、自分を狙ってもらった方が好都合だ。イーシャやラウルに狙いを定められるよりは遥かに。
『ここで食い止めるしかないな・・・・』
 空になったマガジンを抜き取り、新しいマガジンを装填する。さきほどまで使っていた通常のマガジンとは違うロングマガジンだ。
『さて・・・どこからくるか・・・』
 周りを見渡す・・・いくつもの機材が乱立しているここでは何処からでも気づかれずに容易に近づくことが出来るだろう。だが、当然襲いやすいポイントというものは存在する。常識で考えるならそのポイントから襲ってくるのだろうが、あの身体の力を考えると・・・。
『読みきれないな・・・』
 そうなると神経を研ぎ澄ます以外にもはや方法はない。サガトが再び五感を限界まで研ぎ澄ます。
「!?」
 一瞬の気配。その次の瞬間既にサガトの意識はなかった。
 
 覚えてる。今でも目を閉じると思い出すことがある。あの透明で綺麗な緑・・・その向こうにある景色を今でも。ふわふわと浮いていた。いつもその緑の向こうではたくさんの人たちが忙しなく働いていた。皆似た格好の長い服を着た人たち・・・何をやってるんだ?ずっと気になっていたが・・・この口は開かなかった。声を発そうしても声にならなかった。ゴボゴボという音を立てて、泡が浮くだけ・・・。
「・・・・」
 ラウルの前に無数に並ぶ巨大なカプセル・・・その中に浮かぶモノ達・・・漏れる緑色の・・・エメラルドグリーンの光・・・。
 それはその光景に似ていた。それが過去の記憶なのかどうか定かではない。だが、確実に記憶に根ざしている光景・・・それが何なのかすら分からないのに・・・。
「・・・・」
 ゆっくりとラウルがカプセルに近づく。中に浮かぶモノ・・・人ではない、しかし人に似ているソレの瞳がゆっくりとラウルの方を向く。
「・・・そうか」
 ラウルには不思議とソレが何を訴えかけているのか分かった。そして、そのカプセルにそっと手を添えた。
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by eternal-d-soul | 2007-10-25 05:05 | 連載小説:近未来新都心
「っと、っと・・・」
 イーシャが簡易梯子から飛び降りる。その横にはサガトが銃を構え、鋭い視線を周囲に向けていた。
「いやー、しかしコレは驚いたわねぇ・・・・」
 イーシャは周囲をぐるりと見渡した。そこは完全にカントリーの地面の下・・・つまりは地下だ。そこに本来あるはずのない機械が立ち並ぶ空間が広がっていた。完全に電力が生きているのか、薄暗かった上層部とは違い照明により明るく照らされている。
「急ぐぞ」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
 サガトが油断なく銃を構え、廊下を歩き始める。イーシャもその後に銃を構えながら続いて歩く。
『変な機械が多いところねぇ・・・』
 チラチラと視線を周りに向けるが、そこには今まで見たことが無いよう機械が並んでいた。強いて言うなら生態工学の研究に使うような大規模演算装置や空気調整器の類に似ている。
「ねぇ、どこに向かってるワケ?」
 目的も言わずに歩き回るサガトにイーシャが不安そうに問いかける。
「とりあえずは安全な場所だ」
「安全な場所?」
 これからこの地下施設を探ろうというのに安全な場所とはどういう意味だろう?イーシャが首を傾げる。
「ここはどうやら思った以上に危ないみたいだ。俺の能力でもお前を庇いきれるか分からない・・・」
「な、なーにいってるワケよ!?臆病風にでも吹かれたわけ?」
 イーシャがサガトのらしくない態度に慌てて茶々を入れるが・・・
「お前には安全な場所からこの施設にハッキングをかけて、データをかき集めながら俺をサポートしてくれ。ラウルの捜索とここの調査は俺がやる」
「・・・・マジ?」
 サガトは気にせずに説明を続けた。
「悪いな・・・だが、ここは本当に危ない。お前の初陣にするには向かない場所だったみたいだ」
 イーシャは気づいていないようだが、先ほどからサガトは強い殺気を感じていた。その殺気はこの地下に侵入したときからずっと背後につきまとっている・・・いつ襲いかかってきてもおかしくないほどの強い殺気・・・危険すぎる。恐らくこの殺気を放っているモノがここに調査に来たフリーターと調査員を殺した犯人だろう。だとすればフリーターとしはまだ未熟なイーシャは危険すぎる。それがサガトの結論だ。
「・・・そ、そんなにヤバイところにカヨワイ女の子残していくワケ?」
「少なくとも俺と一緒に居るより安全だ」
「・・・・」
 軽口を叩いても相手にされない。イーシャはなにやら不穏空気を感じた。・・・俺と居るより安全?
「ここが良さそうだな・・・・」
 サガトが大きなガラスと鋼鉄製の扉のある部屋の前で立ち止まった。
「ここ?だってコレガラスじゃない?」
「特殊強化防弾ガラスだ。簡単には破れないさ」
 サガトが扉を開く。ロックは掛かっていないらしく、扉はあっさりと開いた。
「ねぇ、ねぇ・・・マジでここに置いてくワケ?」
「言っただろ?俺と居るよりは安全だってな」
「・・・うう」
 ここまで来て、こんな冗談は言わないだろう。つまり本気で危ないのだ。ひょっとするとすぐそこまで敵が迫っているのかもしれない。
『ゾッとしないわね・・・・』
 一人で居るのも怖いが、あれだけの戦闘技術を持つサガトが“庇いきれない”と言う弱音を吐いている。ならば従うしかないだろう。それに自分の領分であるコンピューター技能を活かすには定位置でのハッキングするにせよ、情報を提供するにせよ、効率が良くもある。
「分かったわよ・・・がんばるわよ・・・・」
「悪いな・・・通信機はオープンにしておく。もしもの時はすぐに戻ってくるさ」
 荷物から弾薬と炸薬、その他必要な物を取り出しながらサガトが言う。
「マジ戻ってきてよね?・・・それと、気をつけてね・・・」
 部屋から出て行くサガトの背中にイーシャの不安そうな声が届く。
「ああ、分かってる。ヘマはしない。それじゃあな」
 軽く手を上げてサガトは部屋を出て行った。ただ、それが戦いの始まりを告げる合図だったのかもしれない・・・。
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by eternal-d-soul | 2007-10-10 00:54 | 連載小説:近未来新都心
東部工業区第2セクション ナイアーズケミカル 廃プラント内警備室前
PM11:34・・・・

「ちょっ、ソレってどうゆうワケよ!?」
「・・・わからん」
 警備室のコンソールに頬杖をつきながら、サガトは溜め息を漏らした。
「独断で行動するような事はしないはずなんだが・・・」
 そう、それはサガトにとっても初めてのことだった。約三ヶ月・・・決して長い時間とは言えないが、人の特性を見極めるのにはそう短い時間でもない。まして四六時中一緒に生活しているのならば尚のこと。
「でも、現にこうして居ないワケじゃないよ!」
「そうだな・・・」
 ラウルは居なくなった。しかもプラント内のどこからも。通信機の呼びかけに応答しなかったので、警備室の監視カメラを使い、プラント内のあらゆる場所を探したがラウルの姿は何処にも発見出来なかった。外に出た可能性も考慮したが、監視ログからその痕跡は発見出来なかった。
「もー!どうゆうワケなのよー・・・・」
 イーシャはウンザリだという表情で椅子の背もたれに寄りかかった。
「イーシャ、この施設で何か隠せそうな場所は見つかったか?」
「あー?そりゃ無理よー。この構造図と監視カメラで撮影出来るポイントチェックして、ついでに外部からここの上空写真とか手に入れたけど、とてもアンタが言うような研究施設を隠す場所なんて無かったわよ」
 構造図と監視システムが監視している場所の画像やデータを参照すれば、監視システムが設置されていないところを容易に洗い出すことが出来る。さらに構造図の偽造の可能性も考慮し、上空図を手に入れ構造図と照らし合わせたが、これといって怪しい場所を見つけることは出来なかった。
「そうか・・・なら地下だな」
「へ?」
「上に無いなら残るは下・・・基本だろう?」
「な・・・下!?そんなの無理に決まってるじゃない!」
 地下施設・・・それは基本的に建造は不可能だ。民間住宅ですら地下に構造体を勝手に作ることは禁止されている。地下施設を建設するには、建設前の設計段階、そして実際の建設後に警備隊や企業連合からの厳重な審査が入る。そもそもカントリーの環境維持システムは地下に集中しているのだから、勝手に建造などすればシステムの破損させかねない事態に陥る。そして当の環境維持システムの構造図は企業連合と警備部隊の総本山とも言える、総合管理局に厳重に保管されている。たかだか一企業が持ち出せる代物ではない。
「確かにな。普通なら不可能だろうな・・・」
「それって・・・」
 そのサガトの言葉には妙な含みが混じっていた。まるで何か知っているような。たかだか一企業には不可能だが・・・つまりそれは複数の企業、もしくはそれ以上の・・・。
「思った以上に厄介な仕事かもしれないな・・・・」
 サガトは一つ溜め息をつくと、荷物をまとめ始めた。
「ちょ、ちょっと!なんで地下って断言出来るワケよ!?フツーに考えるならもっと他の・・・」
 そうだ。普通に考えるならば地下なんて可能性はあまりにも低い。それなら、こうもっと他に・・・他に・・・。
「他の・・・なんだ?」
「そ、それは・・・」
 イーシャが口ごもる。残念ながら自分にはサガトが言う“地下”という考え以外に、電力が何処に供給されているかの原因も、行方不明になった調査員達の所在も、辻褄の合う考えを思いつかない。
「それにラウルも恐らくは地下だろう」
「え?」
「外に出た形跡も無かったしな・・・この施設の中に居るのは間違いない」
「なるほどねぇ・・・」
 普段なら笑い飛ばしてバカにしても良い所のはずなのだが、サガトが相手だと納得してしまう。もしくは自分の唯一丸め込んだ相手だからだろうか?故に信頼しているのかもしれない。
 サガトは構造図を見ながら、しばらく考え込み、そして口を開いた。
「ここの食堂・・・ここに指向性炸薬を設置して地下へのルート開く」
「え、えらい強引ねぇ・・・」
 指向性爆薬での床の破壊・・・手早い方法だがあまりスマートとは言い難い。しかし、地下への道も分からない現状では一番の得策なのかもしれない。
「あまりゆっくりは出来ないからな・・・」

 ゴォオオン!!!
「!?」
 爆音と凄まじい振動にラウルは立ち止まった。
「・・・サガト」
 原因は分からないが周りを見る限り、深刻な災害が発生したようには見えない。それに嗅覚が僅かに感じる取る火薬の臭い・・・恐らくはサガトが起こした爆発なのだろう。
「道を空けた・・・?」
 理由は定かではないが、恐らくはこの地下施設の存在に気づいたのだろう。
「爆薬か・・・」
 アイツの考えそうな事だ。思慮深くスマートな手段を好むと思っていたら、実は大雑把で強引な手段を使うことを全く厭わない。バランスが取れているようにも見えるが、反して二面性を孕んでいるのがサガトというフリーターだ。
考えてみれば、サガトという人間に関して自分が知り得ている情報は少ない。長いわけでもないが、短いわけでもない・・・そんな付き合いだが、あまりにも知っている事が少ない気がする。
「いや・・・今は考えるな」
 そう、そんなことはいい。今はこの苛立ちの原因を探らなくてはいけない。
白い影・・・それを追っていて気がついたらこんな所に出ていた。ある程度回ったところでこの施設が、先ほどまで自分達が居た施設の真下・・・地下に位置していることに気がついた。窓が一個も無ければ、さすがにここが地下であることに気づく。それに地上の構造体に比べてかなり複雑な作りになっている。ホールや大きな部屋は少なく、研究室が幾つも立ち並んでいると言った構造だ。
 もはや白い影の姿はどこにも見えない。気配も感じない。せいぜい周りに立ち並ぶ見たこともない奇妙な機械達が静かに唸りを上げているだけだ。だが・・・この機械を見ていると何処か懐かしいような・・・それでいてどうにも落ち着かないムカつきを覚える。胃の辺りがうねるような嫌な感覚を。
 理由は分からない。そもそも何故自分が単独行動を取り、結果、任務の途中全く知らない施設の中で孤立したのかさえ。もっともらしい理由と言えばこの堪えようのない苛立ちだけだ。
『この施設に何がある・・・?』
 何かは分からないが確実に“何か”がある。今はそう告げる自分の感覚だけを信じていけばいい。
 機械の立ち並ぶ長い廊下を歩く。あのピンク髪の女でもいればハッキングを仕掛け、ここの見取り図でも手に入れる所なのだろうが、生憎自分にあるのは勘と戦闘技術だけだ。その戦闘技術もサガトから言わせれば半人前らしい。自覚はないが。
「・・・?」
 ふと、ラウルが通路の交差地点で立ち止まる。十字に交差した廊下の右側に続く長い直線・・・その奥に意識が集中する。彼の勘が告げている。こっちへ来い・・・誘っている。
『そうか・・・』
 疑う理由も躊躇う理由もない。ラウルはそのままその廊下に入った。脇に小部屋が幾つかあったが、その廊下は今まで通った複雑な構造と反して、ほとんど一直線だった。やがて正面に今までの扉とは明らかに違う、鉄製のハッチが現れた。“Lv9”と書かれたその扉の堅牢さは見た目にも明らかだ。何層にも重なるように配置された鋼鉄・・・簡単に破壊することは不可能だろう。
「・・・・」
 だが、ラウルがその扉に近づくと、それは驚くほど呆気なくその道を空けた。小さなモーターの駆動音と空気の抜ける音だけが静かな廊下に響く・・・。
「・・・ここは」
 開いた扉から、緑色の光が漏れだした。
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by eternal-d-soul | 2007-09-26 19:14 | 連載小説:近未来新都心
セラフカントリー 警備部隊総合管理局内某所・・・・

「これが今回の“ジグラット”に関する調査結果の内容です」
 光が落とされた部屋のスクリーンに映像とともに幾つかのデータらしきものが表示される。
 円卓・・・そう呼ばれる円形のテーブルについた人物達が一様にうなり声をあげる。
「ほう・・・これは素晴らしい」
 野太く掠れた声の主がそう呟く。
「今回の調査は我々にとって実に有意義な結果が出たようですね」
 澄んだよく通る声がその言葉に続く。
「ああ、これで少しはヤツらにも対抗出来るというものだろう」
 一同に間で囁き声が響く。
「静粛に」
 静かだが良く通る老齢の声が円卓に響く。その声にその場の全員が一斉に口をつむぐ。
「確かに今回の調査によって得られた成果は大きい。だが、ヤツらの動きが活発化していることもまた事実・・・それに・・・」
 顔は分からないがその男がゆっくりを円卓の一点に視線を向ける。
「ウォルス=ビルバーグよ、例の“ヘレティカル”の始末・・・まだつかないのか?」
 名前を呼ばれウォルスにライトが当たる。
「・・・残念ながら。さすがにヘレティカル・・・そう簡単にはいきませんよ」
 ウォルスはいつもの調子でそう答える。
「我らを脅かす存在は何であろうと排除せねばならん・・・それは分かっているであろう?ウォルスよ」
「ええ、もちろん」
「・・・貴様!?」
 ウォルスの慇懃無礼な態度に業を煮やした一人が円卓を叩き立ち上がる。
「静かにしろ!ここは厳粛な円卓会議の場だぞ!」
「・・・ッ!」
 老齢の男の言葉に男は渋々引き下がる。
「ウォルス・・・お前が何を考えているかはどうでも良いことだ。我々の規律さえ守るならばな・・・」
「・・・・」
 ウォルスの顔つきが僅かながら険しくなる。
「管理局から二名・・・バルザールとシンを向かわせる・・・二人を使ってヘレティカルを消去しろ」
「・・・・」
 ウォルスの表情が一瞬だけ、見て取れるほど険しくなる。そのときの彼の瞳の色は普段の穏やかな彼のモノではなかった。獰猛な猛禽類の瞳・・・。
「分かったな、ウォルス。二人を連れて行くがいい」
 老齢の男のその声には有無を言わさぬ圧倒的な圧力があった。円卓という平等の会議に置いても彼の権力は絶対なのだろう。
「・・・・」
 ウォルスは一瞬躊躇したようだが、「失礼します」と一言残し、席を離れ会議室を後にした。
「・・・良いのですか?ドミニオンは重要な拠点の一つ・・・彼らを送れば・・・」
「確実に荒れるのは分かっている」
「では・・・」
「知っているのだよ・・・」
 老齢の男の声のトーンが下がる。
「ドミニオンのヘレティカル・・・ヤツは危険過ぎる・・」
「それは・・・?」
「ヤツが単独で居るうちに消し去らねばならない。ヤツの力は・・・かつて“ジグラット”を滅ぼしたあの男と同じ・・・」
 老齢の男はどこか遠くを見るような眼で虚空を睨んだ。
「滅ぼさねばならない・・・」
 その顔には悲愴感が浮かんでいた。
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by eternal-d-soul | 2007-09-12 01:13 | 連載小説:近未来新都心
『なんだ・・・なんだこの感覚は?』
 落ち着かない・・・この建物に入ってからラウルはずっとその感覚に囚われていた。それは不安感なのか何なのか・・・普段ならこんな気分にはならない。熱くなることはあっても心の奥底にはいつも冷え切った自分がいる。全てを冷静に、そして冷徹に判断する自分が。そのはずだ。だが、今はどうだろう?その底の部分が、ざわついている。いつもは全く意識していないソコが今ははっきりと意識できる。
『怯え・・・?』
 そう、それは畏怖に近い感情。
『俺が恐れている?何を?』
 分からない。それが何なのか。だが、今は驚くほど神経が鋭敏になっているのが分かる。まるで全身から細く研ぎ澄まされた針が周囲に無数に伸びているような感覚・・・気圧、気温、微細な振動、そして音・・・自分の呼吸までもが全身を撫ぜる蛇のよう感じる。
「一体・・・」
 ラウルが考え込もうとした瞬間、彼の感覚が何かの接近を告げる。
「!」
 咄嗟に身体が反応する。まるで一連の動作が記憶された機械のように、ナイフを引き抜き気配の方向に意識を集中し、臨戦態勢に入る。
「・・・・!?」
 奥の廊下の曲がり角付近を一瞬何かが横切る。
「・・・・!」
 ラウルが走り出す。
『分からなかった・・・・』
 ソレの姿はラウルの圧倒的な動体視力を持ってしても、残像しか捉えることが出来なかった。白いモノ・・・それだけしか見えなかった。
『・・・なんだ・・・なぜ・・・走っている・・・・?』
 分からない。何故だ?何故走っている?単独行動は危険・・・分かっている、はず・・・。
 おかしい。頭が回らない。身体が動く。何かを求めている?答えを?答え?なんだ、それは・・・。
 何かに突き動かされてラウルは走る。それが何なのかも分からないままに・・・。

「おっけー!」
 イーシャがディプレイからガバっと起きあがって大きく伸びをする。
「お、いけたか?」
 サガトがイーシャの後ろに行くと、彼女はニヤっと笑って親指を立てた。
「モチモチ、こんなの楽勝だってーの!」
 得意満面、と言った感じでイーシャがニヤニヤと口元を緩める。
「それじゃ、早速ここの構造図を拝ませてもらいますか・・・」
「おっけー」
 イーシャが手早くコンソールを操作する。すると画面全体に施設の構造図が表示される。
「ふむ・・・」
 サガトがそれにざっと目を通す。幾分複雑な構造を持っているようだが、基本的にはただの薬品製造プラント。応接室や会議室が少々多い程度だろう。建造物の大半は製造プラントが占めている。
「とりあえずアヤシそーなトコロは無いみたいだけどねぇ」
 通路やダクトの見取り図も参照するが、確かに怪しい所は見当たらない。
「確かにな・・・どこの施設が電力を消費してるか分かるか?」
「電力?おっけー、今出すわ」
 イーシャがコンソールの操作を始める。
「あれ?」
 だが、データが出てこない。代わりに表示されたのは「UNKNOWN」という文字列・・・。
「ちょ、ちょっとタンマ!どゆことなワケ・・・?」
 イーシャが慌てたようにコンソールを操作し始める。しかし、それ以上の情報が全く表示されない。
「どうだ?」
「ナニこれ・・・?どゆこと・・・・?」
 イーシャが焦ったようにシステムの洗い直しを始めるが、それでも何一つ発見出来ない。
「どーゆーワケよ!?システムがここだけじゃないってワケ?!」
「みたいだな・・・」
 サガトが険しい顔で呟く。
「恐らく、最重要施設は別にあるんだろう・・・電力が供給されているのは恐らくそこだ。しかも、どうやらそこのシステムはイントラネットにすら接続されていないみたいだな」
「何なワケよそれ!?怪しい臭いプンプンすぎじゃないの!?」
 イントラネットにすら接続されていない・・・それはつまり本来施設全体の警護をする役目を果たす警備室の監視外にあるということだ。そんなことが必要な所は“見てはいけないもの”がある所に他ならない。
サガトが失笑を浮かべながら溜め息をついた。
「まぁウォルスの回す仕事だからな・・・何か裏があるとは思ったが・・・」
 サガトはそこで言葉を切って、首を横に振った。
「まぁ、深く考えても始まらないな。文句を言うよりもさっさとこの仕事を終わらせて、たんまり追加報酬を要求するとしよう」
 そんなサガトの様子を見て、今度はイーシャが深い溜め息をついた。
『ウォルスってヤツも相当みたいだけど、コイツも同じくらい相当なワケね・・・』
 自分に第6部隊付属証を違法に発行したり、サガトに情報もロクに与えずに危険な仕事を回すウォルスもウォルスだが、こんな状況で「たんまり追加報酬を要求するとしよう」などという軽口を叩けるサガトも相当なものだ。恐らく二人は『言わずとも分かる』ほど長く仕事をこなしてきたのだろう。
「とりあえず怪しそうな場所を構造図とかから洗ってくれ。準備が出来次第移動だ」
「お、おっけー」
 どこか恐ろしいような感じを受けながら、イーシャが再びコンソールに向かい、データを洗い出す。
とりあえず今は仕事に集中するべきだ。自分だってそれなりの場数は踏んでいる。この程度でサガト達に飲まれている場合じゃない。
『サクっとがんばるわよー!』
 心の中で自分に気合いを入れると、イーシャは作業に没頭し始めた。
「さて・・・と、ラウルでも呼んでくるか」
 荷物をまとめると、サガトは警備室のドアを開けた。
「おい、ラウル。移動・・・・」
 が、そこにラウルの姿は無かった。非常灯が点いただけの無音の空間・・・。
「ラウル・・・?」
 その声だけが通路に木霊して消えた。
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by eternal-d-soul | 2007-08-29 01:04 | 連載小説:近未来新都心
東部工業区第2セクション ナイアーズケミカル 廃プラント
PM9:51・・・・

 灯りが落ちたホール・・・その空虚な空間は暗闇のせいでどこまでも続いているかのような錯覚すら覚える。人の気配が一切せず、無味無臭に近しい空気はあまりにサラリとし過ぎていて寒気がする。
「さてと・・・」
 サガトはバックの中からオリジナルチューンされたアサルトライフル“マザロス”を取り出すと、初弾を装填してセーフティを外す。さらに通信機の周波数をチューニングする。
「俺が先頭に立つ、ラウルお前は荷物を持って最後尾からついてこい」
「・・・分かった」
 ラウルはサガトが降ろした荷物を担ぐとイーシャの後ろに下がった。
「あ、アタシは?」
 イーシャが気まずそうにサガトの顔色を伺う。
「初めからから戦え・・・なんて言わないさ。お前は真ん中に立ってもしもの時は俺なりラウルなりを後方支援してくれ。銃は持ってるだろ?」
「そりゃまぁ・・・」
 イーシャが懐から小型の拳銃を取り出す。HS-R32・・・ヘジースミスマテリアル製の傑作小型自動拳銃・・・携行性や扱いやすさを重視した女性やSP用の拳銃だ。
「キティ・サベージか・・・まぁ、簡単な支援程度ならそれでも十分だろ。初弾は装填してセーフティは外しておけよ?」
「お、おっけー・・・!」
 イーシャが少し慣れないながらも早い手つきで銃を操作する。
「よし・・・通信機は大丈夫か?」
 イーシャとラウルが通信機のスイッチを入れて動作の確認をする。
「おっけー」
「・・・問題ない」
「それじゃあ、いくぞ」
 三人が電気の落ちた廊下をライフルに取り付けられたフラッシュライトを頼りに進む。
「な、なんかイカニモな雰囲気ですぎじゃない・・?」
 イーシャがキョロキョロと落ち着かない様子で辺りを見回す。明かりが消え、非常灯だけが照らす廊下は三人が歩く音だけが響く・・・生の臭いがしない建築物は人に不安感を与える。まして場慣れしていないイーシャはその不安を敏感に感じ取ってしまっているようだ。
「そうだな・・・妙だ」
 サガトが独り言のように小さく呟いた。
「ちょ、ちょっと!?なにが妙なワケ!?」
 イーシャが慌ててサガトに近づく。その顔色はお世辞にも良いとは言えない。
「廃棄されたはずのプラントに非常灯が点くはずがないだろう?」
「ま、まぁ確かに・・・」
「やっぱり何かあるみたいだな・・・」
 その“何か”が何なのかはサガトには分からない。だが、良くないモノに違いはないだろう。
「警備室か・・・」
 しばらく無機質な廊下を進んだところ三人は「Security room」と書かれた部屋の前に着いた。サガトが注意しながら扉を開く・・・。
キィ・・・
 蝶番の軋む音が静かな廊下に響く。
「無人・・・か」
 警備室の中は幾つかのシステムに光が入っているだけで、人の姿は見当たらない。
『監視が出来るここなら一人くらい残して捜索をしてもいいはずなんだが・・・』
 システムが落ちているなら人を残す意味はないだろう。だが、電力が生きているこの状態ならば一人、ないし数人を残していても不思議ではない。それが今は動かぬモノとなっていてもだ。
『ここ以外にも警備室みたいなのがあるってことか・・・?』
 ライトでざっと照らしてみても血痕らしきものすら見当たらない。恐らくここでは何も起きていないということだろう。
「イーシャ」
「へっ!?あ!?な、ナニ・・?!」
 名前を呼ばれたイーシャがビクっと身体を強ばらせてサガトの方を向く。
「・・・なにを驚いてるんだ?」
「いや、だって!いきなり声かけられたらビビるでしょーが!?」
 サガトが小さく溜め息をつく。
「・・・まぁいい。ここのシステムにハッキングをかけられるか?」
「ん?どれどれ・・・」
 イーシャが近場のコンソールに腰を降ろすと素早い手つきでそれを操作してシステムを立ち上げる。と、瞬時に見慣れない文字列が表示される。
「ロックが掛かってるのか・・・?」
「みたいねぇ・・・どーゆーワケ?」
 いよいよ腑に落ちない。廃棄されたプラントのシステムにロック機構が残っているなどあり得る話ではない。
「しかもコレ・・・結構凝ってるわね。ブロックアイスにアクティブカウンターシステムまで生きてるし・・・」
「攻略出来そうか?」
「アンタ、ダレにモノ言ってるワケよ?」
 イーシャが不敵な笑みと共にとサガトを睨み付ける。
「そうだったな・・・分かった。俺とラウルが見張りに立つから、この施設の構造図と可能なら監視システムも掌握してくれ」
「おっけー。まだ分からないけど、5分もあればいけると思うわ」
 ぱたぱたと手を振るとイーシャは自前の端末をコンソールに接続し、ハッキングに没頭し始めた。先ほどまで怖がっていたのがまるで嘘のように。
『餅は餅屋ってことか・・?』
 自分の領分に入ると途端に恐怖心や緊張が解け、その仕事の没入する人種が居る、と聞いたことがある。恐らく彼女はその類なのだろう。
「・・・どうだ?」
 警備室の外に出ると、ラウルが相変わらずの仏頂面で佇んでいた。
「今イーシャがここの警備システムにハッキングをかけてるとこだ。かなり凝った防衛システムみたいだが、あのペースならそう時間は掛からないだろうな」
「そうか・・・」
 しばらくの静寂が訪れる。ドア越しにはイーシャがコンソールを操作する音も聞こえない。
「・・・サガト、ここは俺一人でいい。お前はアイツに着いておけ」
 ふいにラウルが口を開く。サガトは驚いたようなラウルの顔を見た。
「珍しいな・・・お前はそんな事言うなんて・・・どうした?」
「・・・嫌な空気だ・・・落ち着かない。何かある・・・」
 それは的を射ない言い分だ。
「ふむ・・・」
 だが、サガトは知っている。このラウルが常人とは全く別の能力を持っていることを。ラウルの勘は驚くほど冴えている・・・第六感とも言うべきほどに。それを上手く言葉に出来ないのだろうが、何らかの不穏な空気を感じ取っているのだろう。
「分かった。俺は中でイーシャに着いておく。お前も注意しろよ」
「ああ・・・」
 それだけ答えるとラウルは虚空の一点を睨む。それはラウルが神経を研ぎ澄ましているときの独特の仕草だ。サガトはそれを確認すると無言で警備室の中に戻った。
「ん?どしたワケ?」
 イーシャがコンソールから少しだけ顔を上げて声をかけてくる。
「いや、ラウルがお前に着いておけとさ」
「ふーん・・・」
 さほど興味がないのか、イーシャは再びハッキングに没頭し始める。普段自分の意見を言わないラウルがサガトに何か言うなど滅多なことではないのに・・・
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by eternal-d-soul | 2007-08-15 01:33 | 連載小説:近未来新都心
翌日
東部工業区第2セクション ナイアーズケミカル 廃プラント近隣
PM9:47・・・・

「というのが今回の大まかな任務の内容だ」
 サガトが車を走らせながら二人に説明した。二人とも釈然としない顔をしているが。
「なにか質問は?」
「アリよ!アリアリ!オオアリクイよ!」
 イーシャが後部座席から顔を突き出してサガトを睨み付けた。サガトは痛い視線を受けながらも平然とした顔で運転を続けている。
「イーシャ、それあんまり面白くないぞ」
「う、ウッサイわね!大体なに?今の現状説明は!?まるきり全然コレっぽっちも状況わかんないじゃない!」
「まぁな」
「ま、まぁなって・・・アンタ・・!?」
 さもそれが当然だと言わんばかりのサガトの態度にイーシャが言いあぐねる。
「ちょ、アンタもなんか言いなさいよ!」
「・・・・」
 助手席のラウルを見るが、当のラウルも釈然とはしていないものの何かを言うつもりはないらしい雰囲気だ。
「アンタ・・・」
 はぁっとイーシャがため息を残して後部座席に引き下がった。どうやら「言うだけ無駄」というヤツらしい。
『ったく・・・コイツらと組んだのミスだったかなぁ・・・・』
「いつもこんな調子だからな。お前は戦闘要員じゃないないから心配ないさ」
「まぁそりゃそうだろうけど・・・アシストするにしたって情報少なすぎでしょーが」
「それは現場で調べればいいことさ。お前の技術ならネットワークを掌握するのはそう難しい話でもないだろう?」
「それは・・・まぁ・・・」
正直こんな条件下で仕事をするなど到底イーシャには信じられない。綿密な下調べと多くの情報・・・それらこそが任務を成功に導く最重要要素だ。しかしサガト達がやっているのはまさに裸一貫で任務に赴き、全てそこで情報を調達する・・・到底信じがたいことだが、これだけのことを毎回やっているならば自分の包囲網を突破出来るのも頷ける。
「っとそろそろ着くぞ」
 左手に大きな建造物が現れる。パッと見にはとても製薬会社の製造工場には見えない。簡素ながらも周りの自然との調和を意識したデザインには、かなりのセンスを感じる。もしくは対外的に開かれた研究機関を兼ねたプラントなのかもしれない。だが、もはや今となっては街灯もなく、通行人もいないそこは異様な雰囲気を放っているが。
「なんか、イカニモ的な雰囲気ね・・・」
 車を降りたイーシャがその建物を見ながら呟いた。
「だな。まぁ実際ここで確認出来るだけでも六人が行方不明になってるからな・・・しかもフリーターが二人も居てだ」
 続くようにサガトとラウルが車から降りる。
「ちょ、ちょっと脅かさないでよ!?」
 イーシャが妙に慌てた様子で後ずさった。
「なんだ?怖いのか?」
「こ、ここ、こわくなんか・・・!」
 その態度を見れば誰でも怖がっていると分かる。サガトは小さく笑った。さすがのサイバーフェアリィも得体の知れない物は怖いのだろう。ましてこれが初任務とあっては。
「大丈夫だ。インカムは持ってきてる。いざとなれば俺なりラウルなりがすぐに駆けつけるさ」
「それなら・・・」
 イーシャがちらりとラウルの方を見ると、彼は無言で頷いた。
「よし、それじゃ行くぞ」
 サガトが必要な機材を担ぐと、三人は建物に向かって歩き出した。
「・・・・・」
 ふとラウルが立ち止まる。そして建物を見上げて・・・
「・・・嫌な感じだ」
 誰にも聞こえない声でそう呟いた。
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by eternal-d-soul | 2007-08-01 11:14 | 連載小説:近未来新都心
「くそ!」
 サガトは鋼鉄の扉を叩いた。厚い鋼鉄製のそれは彼の拳程度ではビクとしもしない。そして恐らく銃弾も通しはしないだろう。
『ちょっと!ホントやばいってのよ!なんなワケよ!?このバケモノは!?』
 イヤホンからはイーシャのパニックに陥った声が聞こえてくる。まずい・・・早く救出行かなければいけない。だが・・・
「くそ・・・!!」
 鋼鉄の扉は一行に開く気配を見せない。地下に位置しているこの部屋には窓もダクトもない。しかもこの狭さでは爆薬も使えなければ、どこか別の脱出路を探すのも不可能だろう。まして情報があまりにも少なすぎる。イーシャの言うバケモノが何なのか、自分をここに閉じこめた奴は何者なのか・・・恐らく依頼された調査の目標ともいえるだろうそれらの姿が一切確認できていない。映像端末をイーシャに預けているこの状況では外の状態すらロクに確認できない。その目標が人間なのか、そうでないのかすらも。
「どうすれば・・・」
ヴゥン!
「!?」
 モーターが動き出したような低い音が室内に響き、室温が急激に下がり始める。
「凍死させるつもりか・・・!?」
 どうやらここは冷凍保管庫の類らしい。一度人が閉じこめられれば、それは特注の棺桶になるだろう。
「ラウル!おい!ラウル聞こえるか!?」
 マイクに向かって叫ぶがラウルからの返事はない。
「おい!ラウル!!」
 まさか、ラウルにまで何かあったとでも言うのだろうか?

《おい!ラウル!!》
 ラウルの眼に映る色・・・それは自分の瞳と同じエメラルドグリーンの光・・・
『覚えがある・・・』
 見たことがある。この景色。見たことがないはずなのに・・・どこかで・・・どこだ?
 通路沿いに規則的にならぶ機械と円筒形のガラスケース・・・漏れるエメラルドグリーンの光・・・そして・・・
 ラウルはそれを眺めながら立ちつくしていた。何かに魅せられたかのように。

前日・・・・
PM2:15・・・・
経済区第1セクション ユニオンビル 警備部隊第6課メインオフィス・・・・

 お昼休みの時間が過ぎ、雑務に追われ始めたオフィスに一人の男が現れた。黒を基調とした服装をしている黒髪の男、サガトだ。慌ただしく走り回る行員を器用に避けながら、一番奥にある警視総長室に向かった。
「どーも、っと・・・・」
 サガトがドアを開けると、そこにウォルスの姿はなく、代わりにリエルが警視総長席に座っていた。
「これ座り心地いいなぁ・・・」
 サガトに気づいていない彼女は背もたれに身体を預けたり、離したりしながら椅子の感触を確かめている。
「この肘置きなんかもう・・・」
「なにやってんだ?リエルちゃん」
「えっ!?ひゃ!?」
 いきなり声をかけられたリエルが驚いた拍子に椅子ごと床に倒れた。
「お、おい、大丈夫か?」
「いたた・・・・」
 リエルは腰のあたりをさすりながら立ち上がった。
「もう・・・いきなり声かけないで下さいよぉ・・・」
 リエルが涙を滲ませながらサガトを睨む。
「悪い悪い」
 口はではそう言うものの、さほど悪びれた様子もないサガトを恨めしく思う。毎度ながらサガトに振り回されているので慣れてしまっている自分も恨めしい。
「そんで、ウォルスに呼ばれて来たのにアイツが居ないってのはどうゆうことだ?」
「ウォルス警視総長は上から緊急の呼び出しがかかったので、セラフカントリーの方にお出かけになりました・・・よいしょっと・・」
 リエルが倒れた椅子を持ち上げながらそう説明した。
「セラフ?総合管理局になんでまた・・・」
「さぁ・・・私にはなんとも・・・」
「まぁその話は俺が直接ウォルスに聞いておくさ。それで、今回の依頼の内容は?」
「あ!そうでしたね!」
 今思い出したかのようなリアクションでリエルはデスクの上から幾つかの資料を選び出してサガトに差し出した。
「はいどうぞ!」
『忘れてたのか・・・』
 この抜け具合には毎度ながら不安にさせられる。これでよく警視総長の秘書が務まるものだ・・・と。もっともそこが彼女の良い所とも言えるだろうが。
「じゃ今回の依頼を説明しますね!適当に座って下さい」
 リエルに言われた通りにサガトは適当にデスクの
上に腰を降ろした。
「そこは・・・」
「適当にって言っただろう?」
「うー・・・・まぁいいです。それじゃ説明しますね」
 リエルは自分の分の資料を手に取った。
「今回の依頼の主な内容は調査です」
「主な・・・?」
「主な、です。何せ細かい所が全然分からないので」
 全然・・・一気に不安にさせられる言葉だ。
「・・・それで?」
「はい。調査する目標は東部工業区のナイアーズケミカルが保有していた廃プラントです」
「ナイアーズ?半年前に倒産した医薬品製造会社か・・・」
「そうです。同プラントを取り壊して、新しくブライブスが農業用品製造工場を建造しようと6名の調査員を派遣したのですが・・・・」
「全員行方不明・・・か」
「え、なんで分かるんですか?」
 リエルが驚いた顔でサガトを見る。
「いや、資料にそう書いてあるから・・・」
「あ、あー、あ・・・そゆことです」
「・・・・」
 リエルが決まりの悪そうな顔で俯いた。
「と、というワケで!そこの調査を依頼したいんですよ!」
「そりゃ分かったが・・・なんでそれが警備隊の管轄になるんだ?全員行方不明ってのは確かに腑に落ちない所があるが、それでも本来なら企業がフリーターを雇うなりして独自調査をするはずだろう?」
「え?え、えっと・・・それはですね・・・」
 リエルが慌てて資料をめくりだす。どうやら肝心な理由を忘れたらしい。
「・・・・」
 しばらく待っているとリエルが問題のページを発見したのか顔を輝かせた。
「あ!ここです!ありました!」
「・・・そう」
 サガトが、がっくりと首をうなだれる。
「えーとですね・・・ブライブス側は不測の事態に備えて二名のフリーターを同行させていたそうです」
「二人も?その二人とも連絡が取れないのか?」
「みたいです。ジェームズ=フライとレクリー=ビリアム、あ、写真とか詳しいデータはその資料に載ってますよ」
「ふむ・・・」
 サガトは資料をめくった。ジェームズ=フライ、レクリー=ビリアム・・・二人とも全盛を過ぎているとは言えかなりの実力の持ち主だと聞いている。実際にその実力のほどを確認したことはないが、ここに載せられている経歴をみても調査に出向いて行方不明などということは到底考えられない。よほどの事態が起きていない限りは・・・。
「それで、今回の依頼は調査ってことです」
「なるほどね・・・それにしてもブライブスはなんでフリーターを二人も?」
「それはですね・・・妙なことがあるからなんですよ」
「妙なこと?」
「はい。ここの経営主であるナイアーズはもう倒産しているのに、なぜか電力が供給されているみたいなんです。ラインをカットしようとしてもプログラムに特殊な細工がされてるみたいで・・・」
「そうか・・・つまりはその原因も含めて、もろもろ俺に調査しろってことか」
「みたいですね・・・なんか危険多そうですけど」
 リエルの言うとおりだ。フリーターが二人も行方不明という事態はただ事ではない。しかも分からない事だらけの上に怪しげな臭いがプンプンときている。
「相変わらず無茶な仕事ばかり押しつけやがる・・・」
 それだけの報酬こそ出はするものの、他のフリーターに比べて無理な仕事を多く回されていることは明らかだ。
「あ、でも今回は参加人数分報酬を出すって言ってましたよ!」
 そんなサガトを見てリエルが元気づけるつもりでそう言った。
「ますますヤバそうな雰囲気が増したな・・・・」
 だがそれは逆効果に終わった。
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by eternal-d-soul | 2007-07-19 03:17 | 連載小説:近未来新都心