武装神姫:がんなーず マオ!! その1
2008年 01月 25日
蝶番の軋む音がベル代わりになり、バーへの来訪を告げる。来訪者はテンガロンハットを目深に被り、外に広がる荒野と同じくすんだ色のマントを羽織った神姫だった。その姿からはどのモデルなのかも、表情すらも伺うことは出来ない。
「いらっしゃいませ。ようこそ“ヂェリカン”へ」
こんな街には似つかわしくない小綺麗なウェイトレス姿の神姫が来訪者に礼をする。落ち着いた薄紫の髪を後ろで二つに結んだ神姫、イーダだ。
「……いらっしゃい」
幾分遅れてカウンターに立つタキシード姿のもう一人の神姫が小さく礼をする。こちらもこんな街に居るとは思えないほどの美しい神姫だ。ピンク色の長髪がバーの薄暗い照明に照らされて幻想的にキラキラと輝いている。彼女はアーク、そう呼ばれる神姫だ。
来訪者は二人を一瞥すると、一番奥まった席に歩を運び、腰を降ろした。
「お客様、ご注文はどうされますか?」
直ぐさまイーダが横に立ち注文を取る。
「よく冷えたミルクが飲みたいな。あ、低脂肪じゃないヤツで」
来訪者の注文にイーダは深く、そして優雅な動作で頭を下げた。
「かしこまりました。ジュダ、オーダーよ。よく冷えたミルクを。低脂肪じゃないヤツでお願いね」
「……分かった」
カウンターに立つ神姫、アークのジュダが冷蔵庫からビン入りのミルクを取り出す。もちろん低脂肪ではないミルクだ。そのミルクの蓋を開け、クラッシュした氷と一緒にシェイカーに放り込む。ジュダは慣れ手つきでシェイクすると、それをグラスに注ぎ、ストローを差した。
「……ミフナ、できた」
出来上がったミルクをコースターに乗せて、イーダのミフナがテンガロンハットの来訪者の元に運ぶ。
「お待たせ致しました。ミルクでございます」
洗練された、流れる様な動作でミフナは来訪者の前に、音一つ立てずにミルクを置いた。
「ありがと」
来訪者はストローをくわえるとミルクをズズズと音をさせながら飲んだ。
「これはとってもいいミルクだね」
満足げに喉を鳴らして来訪者が唸る。
「ありがとうございます。それではごゆっくりどうぞ」
ミフナはゆったりとした動作で優雅に礼をするとカウンターの方に戻っていった。
バーに流れる穏やかな音楽が適度な静寂をもたらす中、来訪者はミルクをゆっくりと楽しんでいた。口に広がる濃厚な味と香り……それは手がほとんど加わっていない新鮮なものだからこそ味わえるものだ。
だが、そんな束の間の楽しみはバーの外から響いてきた一発の銃声で打ち切られた。
「!」
バーの中の雰囲気が、にわかに緊迫したものになる。
「また奴らね……」
ミフナが眉を顰めながら呟いた。
「ヤツら?」
来訪者がミフナに問いかける。
「……この辺りを牛耳ってるファミリー地獄兎耳(ウサギの耳は地獄耳)……乱暴者達ばかり……」
その問いに代わりに答えたのはジュダだった。
「乱暴者……」
「ええ、彼らのおかげでどれだけこの街の住人が苦しんでいるか……無事なのはせいぜいこのバーくらいです。ここは彼らも利用しているのであまり暴力は振るわれないのですが……」
ミフナは俯いてぎゅっと唇を噛みしめた。
「悪いヤツらにはお仕置きが必要だねっ……!」
ミルクを一気に飲み干すと、来訪者が席から立ち上がった。
「……ッ! お客様、今外に出ては危険ですよ!!」
外に向かう来訪者をミフナが止める。しかし、来訪者はそれを聞き入れず、
「ミルク、おしかったよ。また来るね」
そう言って外に出て行った。
「あなたは……」
座っていたテーブルの上にはミルクの代金がきっちりチップ付きで置いてあった。
・・・つづく
「いらっしゃいませ。ようこそ“ヂェリカン”へ」
こんな街には似つかわしくない小綺麗なウェイトレス姿の神姫が来訪者に礼をする。落ち着いた薄紫の髪を後ろで二つに結んだ神姫、イーダだ。
「……いらっしゃい」
幾分遅れてカウンターに立つタキシード姿のもう一人の神姫が小さく礼をする。こちらもこんな街に居るとは思えないほどの美しい神姫だ。ピンク色の長髪がバーの薄暗い照明に照らされて幻想的にキラキラと輝いている。彼女はアーク、そう呼ばれる神姫だ。
来訪者は二人を一瞥すると、一番奥まった席に歩を運び、腰を降ろした。
「お客様、ご注文はどうされますか?」
直ぐさまイーダが横に立ち注文を取る。
「よく冷えたミルクが飲みたいな。あ、低脂肪じゃないヤツで」
来訪者の注文にイーダは深く、そして優雅な動作で頭を下げた。
「かしこまりました。ジュダ、オーダーよ。よく冷えたミルクを。低脂肪じゃないヤツでお願いね」
「……分かった」
カウンターに立つ神姫、アークのジュダが冷蔵庫からビン入りのミルクを取り出す。もちろん低脂肪ではないミルクだ。そのミルクの蓋を開け、クラッシュした氷と一緒にシェイカーに放り込む。ジュダは慣れ手つきでシェイクすると、それをグラスに注ぎ、ストローを差した。
「……ミフナ、できた」
出来上がったミルクをコースターに乗せて、イーダのミフナがテンガロンハットの来訪者の元に運ぶ。
「お待たせ致しました。ミルクでございます」
洗練された、流れる様な動作でミフナは来訪者の前に、音一つ立てずにミルクを置いた。
「ありがと」
来訪者はストローをくわえるとミルクをズズズと音をさせながら飲んだ。
「これはとってもいいミルクだね」
満足げに喉を鳴らして来訪者が唸る。
「ありがとうございます。それではごゆっくりどうぞ」
ミフナはゆったりとした動作で優雅に礼をするとカウンターの方に戻っていった。
バーに流れる穏やかな音楽が適度な静寂をもたらす中、来訪者はミルクをゆっくりと楽しんでいた。口に広がる濃厚な味と香り……それは手がほとんど加わっていない新鮮なものだからこそ味わえるものだ。
だが、そんな束の間の楽しみはバーの外から響いてきた一発の銃声で打ち切られた。
「!」
バーの中の雰囲気が、にわかに緊迫したものになる。
「また奴らね……」
ミフナが眉を顰めながら呟いた。
「ヤツら?」
来訪者がミフナに問いかける。
「……この辺りを牛耳ってるファミリー地獄兎耳(ウサギの耳は地獄耳)……乱暴者達ばかり……」
その問いに代わりに答えたのはジュダだった。
「乱暴者……」
「ええ、彼らのおかげでどれだけこの街の住人が苦しんでいるか……無事なのはせいぜいこのバーくらいです。ここは彼らも利用しているのであまり暴力は振るわれないのですが……」
ミフナは俯いてぎゅっと唇を噛みしめた。
「悪いヤツらにはお仕置きが必要だねっ……!」
ミルクを一気に飲み干すと、来訪者が席から立ち上がった。
「……ッ! お客様、今外に出ては危険ですよ!!」
外に向かう来訪者をミフナが止める。しかし、来訪者はそれを聞き入れず、
「ミルク、おしかったよ。また来るね」
そう言って外に出て行った。
「あなたは……」
座っていたテーブルの上にはミルクの代金がきっちりチップ付きで置いてあった。
・・・つづく
by eternal-d-soul
| 2008-01-25 00:49
| 小説:武装神姫