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管理人山猫礼と副管理人ユースケによる小説と絵のブログ 毎週水曜更新b


by eternal-d-soul
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近未来新都心 Chapter03 NO.06

東部工業区第2セクション ナイアーズケミカル 廃プラント内警備室前
PM11:34・・・・

「ちょっ、ソレってどうゆうワケよ!?」
「・・・わからん」
 警備室のコンソールに頬杖をつきながら、サガトは溜め息を漏らした。
「独断で行動するような事はしないはずなんだが・・・」
 そう、それはサガトにとっても初めてのことだった。約三ヶ月・・・決して長い時間とは言えないが、人の特性を見極めるのにはそう短い時間でもない。まして四六時中一緒に生活しているのならば尚のこと。
「でも、現にこうして居ないワケじゃないよ!」
「そうだな・・・」
 ラウルは居なくなった。しかもプラント内のどこからも。通信機の呼びかけに応答しなかったので、警備室の監視カメラを使い、プラント内のあらゆる場所を探したがラウルの姿は何処にも発見出来なかった。外に出た可能性も考慮したが、監視ログからその痕跡は発見出来なかった。
「もー!どうゆうワケなのよー・・・・」
 イーシャはウンザリだという表情で椅子の背もたれに寄りかかった。
「イーシャ、この施設で何か隠せそうな場所は見つかったか?」
「あー?そりゃ無理よー。この構造図と監視カメラで撮影出来るポイントチェックして、ついでに外部からここの上空写真とか手に入れたけど、とてもアンタが言うような研究施設を隠す場所なんて無かったわよ」
 構造図と監視システムが監視している場所の画像やデータを参照すれば、監視システムが設置されていないところを容易に洗い出すことが出来る。さらに構造図の偽造の可能性も考慮し、上空図を手に入れ構造図と照らし合わせたが、これといって怪しい場所を見つけることは出来なかった。
「そうか・・・なら地下だな」
「へ?」
「上に無いなら残るは下・・・基本だろう?」
「な・・・下!?そんなの無理に決まってるじゃない!」
 地下施設・・・それは基本的に建造は不可能だ。民間住宅ですら地下に構造体を勝手に作ることは禁止されている。地下施設を建設するには、建設前の設計段階、そして実際の建設後に警備隊や企業連合からの厳重な審査が入る。そもそもカントリーの環境維持システムは地下に集中しているのだから、勝手に建造などすればシステムの破損させかねない事態に陥る。そして当の環境維持システムの構造図は企業連合と警備部隊の総本山とも言える、総合管理局に厳重に保管されている。たかだか一企業が持ち出せる代物ではない。
「確かにな。普通なら不可能だろうな・・・」
「それって・・・」
 そのサガトの言葉には妙な含みが混じっていた。まるで何か知っているような。たかだか一企業には不可能だが・・・つまりそれは複数の企業、もしくはそれ以上の・・・。
「思った以上に厄介な仕事かもしれないな・・・・」
 サガトは一つ溜め息をつくと、荷物をまとめ始めた。
「ちょ、ちょっと!なんで地下って断言出来るワケよ!?フツーに考えるならもっと他の・・・」
 そうだ。普通に考えるならば地下なんて可能性はあまりにも低い。それなら、こうもっと他に・・・他に・・・。
「他の・・・なんだ?」
「そ、それは・・・」
 イーシャが口ごもる。残念ながら自分にはサガトが言う“地下”という考え以外に、電力が何処に供給されているかの原因も、行方不明になった調査員達の所在も、辻褄の合う考えを思いつかない。
「それにラウルも恐らくは地下だろう」
「え?」
「外に出た形跡も無かったしな・・・この施設の中に居るのは間違いない」
「なるほどねぇ・・・」
 普段なら笑い飛ばしてバカにしても良い所のはずなのだが、サガトが相手だと納得してしまう。もしくは自分の唯一丸め込んだ相手だからだろうか?故に信頼しているのかもしれない。
 サガトは構造図を見ながら、しばらく考え込み、そして口を開いた。
「ここの食堂・・・ここに指向性炸薬を設置して地下へのルート開く」
「え、えらい強引ねぇ・・・」
 指向性爆薬での床の破壊・・・手早い方法だがあまりスマートとは言い難い。しかし、地下への道も分からない現状では一番の得策なのかもしれない。
「あまりゆっくりは出来ないからな・・・」

 ゴォオオン!!!
「!?」
 爆音と凄まじい振動にラウルは立ち止まった。
「・・・サガト」
 原因は分からないが周りを見る限り、深刻な災害が発生したようには見えない。それに嗅覚が僅かに感じる取る火薬の臭い・・・恐らくはサガトが起こした爆発なのだろう。
「道を空けた・・・?」
 理由は定かではないが、恐らくはこの地下施設の存在に気づいたのだろう。
「爆薬か・・・」
 アイツの考えそうな事だ。思慮深くスマートな手段を好むと思っていたら、実は大雑把で強引な手段を使うことを全く厭わない。バランスが取れているようにも見えるが、反して二面性を孕んでいるのがサガトというフリーターだ。
考えてみれば、サガトという人間に関して自分が知り得ている情報は少ない。長いわけでもないが、短いわけでもない・・・そんな付き合いだが、あまりにも知っている事が少ない気がする。
「いや・・・今は考えるな」
 そう、そんなことはいい。今はこの苛立ちの原因を探らなくてはいけない。
白い影・・・それを追っていて気がついたらこんな所に出ていた。ある程度回ったところでこの施設が、先ほどまで自分達が居た施設の真下・・・地下に位置していることに気がついた。窓が一個も無ければ、さすがにここが地下であることに気づく。それに地上の構造体に比べてかなり複雑な作りになっている。ホールや大きな部屋は少なく、研究室が幾つも立ち並んでいると言った構造だ。
 もはや白い影の姿はどこにも見えない。気配も感じない。せいぜい周りに立ち並ぶ見たこともない奇妙な機械達が静かに唸りを上げているだけだ。だが・・・この機械を見ていると何処か懐かしいような・・・それでいてどうにも落ち着かないムカつきを覚える。胃の辺りがうねるような嫌な感覚を。
 理由は分からない。そもそも何故自分が単独行動を取り、結果、任務の途中全く知らない施設の中で孤立したのかさえ。もっともらしい理由と言えばこの堪えようのない苛立ちだけだ。
『この施設に何がある・・・?』
 何かは分からないが確実に“何か”がある。今はそう告げる自分の感覚だけを信じていけばいい。
 機械の立ち並ぶ長い廊下を歩く。あのピンク髪の女でもいればハッキングを仕掛け、ここの見取り図でも手に入れる所なのだろうが、生憎自分にあるのは勘と戦闘技術だけだ。その戦闘技術もサガトから言わせれば半人前らしい。自覚はないが。
「・・・?」
 ふと、ラウルが通路の交差地点で立ち止まる。十字に交差した廊下の右側に続く長い直線・・・その奥に意識が集中する。彼の勘が告げている。こっちへ来い・・・誘っている。
『そうか・・・』
 疑う理由も躊躇う理由もない。ラウルはそのままその廊下に入った。脇に小部屋が幾つかあったが、その廊下は今まで通った複雑な構造と反して、ほとんど一直線だった。やがて正面に今までの扉とは明らかに違う、鉄製のハッチが現れた。“Lv9”と書かれたその扉の堅牢さは見た目にも明らかだ。何層にも重なるように配置された鋼鉄・・・簡単に破壊することは不可能だろう。
「・・・・」
 だが、ラウルがその扉に近づくと、それは驚くほど呆気なくその道を空けた。小さなモーターの駆動音と空気の抜ける音だけが静かな廊下に響く・・・。
「・・・ここは」
 開いた扉から、緑色の光が漏れだした。
by eternal-d-soul | 2007-09-26 19:14 | 連載小説:近未来新都心