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管理人山猫礼と副管理人ユースケによる小説と絵のブログ 毎週水曜更新b


by eternal-d-soul
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剣客奇譚カルナ 2話 No.04

 月が高く昇り、夜の暗さが一層増す。それは昼の世界住人である人間の時間が終わった証。古来、人は闇を畏れてきた。人はそれを克服するために火を生み出し、光を溢れさせた。文明という火が灯り、街が明かりに満ちあふれるようになった今でも、しかし人は闇を完全に消し去ることは出来なかった。いや、むしろ明かりに照らされた闇はより色濃くその影を落とすようになったのかもしれない。
「暁大学(あかつきだいがく)・・・ここか」
 仁は大きな建物の正門に立っていた。そこは仁が住む暁市内に建つ私立大学。生徒数が一万を超えるマンモス校であり多くの学科を持っている。その中でも特に美術学科は国内でもそれなりに名が通っており全国から芸術家の卵がこぞって受けにきているらしい。
「しかし大きいなぁ・・・」
 市内でも外れの方に位置するこの大学の近所に仁は滅多に来たことがない。遠目には見たことがあったが、いざ目の前にするとその大きさは異常としか言いようがない。仁の高校のサイズならば軽く5校は入ってしまうのであろう広大な敷地。建つ建物はどれも巨大で、ここがオフィス街だと言われても納得しそうなほどだ。それほどに大学という空間は広い。
「・・・どこから入ればいいんだろ」
 東郷から連絡を受けて来てみたはいいが、来るまでに道に迷い、さらには着いてみれば肝心の東郷は居ない、連絡もとれない、どこから入ればいいかも分からない、と踏んだり蹴ったりだ。
 だが、校内から感じる確かに気配・・・それは紛れもない、あの蛙の化け物と同じ存在がこの中にいるということだ。カルナと一つになったことで感覚が鋭くなっているのかその気配がはっきりと分かる。
「・・・逃げるわけにはいかないよな」
 東郷が居ないことは心細い。まだ戦いだってまとも出来るか分からない。しかし、だからといって化け物をのさばらせておくことは出来ない。“未悠や生徒会のみんなの様な目にもう誰も遭わせたくない”その気持ちが仁を突き動かしていた。
 大学というものは夜になるとほとんどの入り口が閉じられてしまう。さすがに高校とは違い構造を知らない学校に乗り込むのは楽なことではない。ヘタに柵を乗り越えようとすれば不審者扱いされる可能性だってある。
「この辺りなら・・・」
 しばらく歩いたところで大きな通りに面していない場所に出くわした。侵入者を防ぐために設置されている金網は少々高いが、柵よりも幾分昇りやすい。ここならば・・・。
「あー!もう!クソ!なんで取れないのよ!!」
「!?」
 いきなりの大声に仁が驚く。見ると、仁が昇ろうとした金網よりもやや奥にある金網がガシャガシャと大きな音を立てて揺れていた。その金網の上には人影らしきものも見える。
『泥棒・・!?』
 仁は静かに歩を進めて人影の近くまで行く。わずかな明かりに照らされて人影の姿が鮮明になる。赤、黒、白が様々に入り交じった奇抜で派手な服装に左右に二つに結ったメッシュ入りの長い茶髪。それは暗がりの中でも大いに目立っていた。スカートを履いてることや髪の長さから恐らく女性であることは分かる。明らかに金網を乗り越えようとしていることから、校内に侵入しようとしているのも分かる。
 だが、そのどこからも「こっそり」「バレないように」といった侵入するときに必要なスタンスが微塵も感じられない。
『・・・さすがに泥棒じゃない、な』
 それは間違いなさそうだ。
「あーもう!金網邪魔!邪魔!!」
「・・・・・あの~」
 仁が恐る恐る声をかける。
「うぇっ!?へぇっ!?」
 完全に裏返った声をあげて奇抜な服装の女性がバランスを崩し、金網から落ちそうになる。
「危ない!」
 仁が急いで女性を支えようとするが、既に遅かった。仁の上にのしかかる形で女性が金網から落ちる。その瞬間、ビリッ!というなにやら良くない音が聞こえた。
「いつつつ・・・」
「いったーい!!!ったく!あんた誰よ!?いきなり声かけられたから落っこちちゃったじゃない!!」
 仁の上で女性が大声をあげ、ドタバタと暴れる。人の上だと言うのにまったくお構いなしだ。
「あの、とりあえずどいて欲しいんですけど・・・」
 女性の勢いに仁の口調も思わず敬語になる。
「あー!!私の服がー!!!」
「ぐふぅっ!」
 起きあがりさまの女性の足が仁のお腹に深々とめり込む。超ド級のボディーブローだ。
「これお気に入りだったのに・・・!なんてことしてくれるのよ!?このクソ野郎!!」
 仁が痛むお腹を押さえながらフラフラと起きあがる。その目の前に布の切れ端が突きつけられた。どうやら金網に引っかかっていた部分が落ちた勢いで破れてしまったようだ。
「弁償してくれるんでしょうね!?」
「あ、いや・・・その・・・」
 あまりの勢いに仁が何も言えなくなる。いや、恐らく誰であろうと何も言えなくなるだろう。それくらいのとんでもない勢いだ。
「ん?あんた見ない顔ね?大体、なんでこんな真夜中にこんなトコに居るの?」
 女性が怒りの形相から「こいつ変質者?」とでも言いたげな表情になり、ジロジロを上から下まで舐めるように仁を見る。
「怪しい・・・昨今流行の強姦魔?」
 とんでもない女性だ・・・仁はそう思った。いや、実際に近場で見てみるとその顔立ちはまだまだ幼い。化粧で大人っぽく見えなくもないが、服装や態度から感じるものは女性というよりは少女という印象の方が強い。
『むしろガキ・・・?』
 思わず口をついて出そうになる言葉をぐっと飲み込む。そんなことを言った日にはどんな事態になるか分からない。仁には分かるのだ。直感で。
「いきなりそれはちょっと酷いんじゃないですか?そっちこそなんでこんな所に居るんですか?」
 どうにか冷静になってそう言い返してみる。が、ガ・・・基、少女は「ふん!」と胸を張って、
「私はここの学生よ!あんたとは違って全然これぽっちも怪しい要素なんかないわ!」
 そう言ってのけた。とても校内に侵入しようとしていた人物とは思えない偉そうな態度だ。
「そ、そうですか・・。でもなんでこんな時間に金網昇ったりしてたんですか?」
「えっ!?そ、それは・・・・」
 途端に勢いが無くなる。しばらくキョロキョロと視線を動かして、それから「はっ!」と何かを思いついたような顔になり、
「忘れ物を取りに来たのよ!」
 と、再び偉そうに言う。いや、もはや完全にボロは出てしまっているが。
「ここの学生なら明日取りにくればいいんじゃないですか?何もこんな時間に金網を乗り越えなくても・・・」
「あーもう!うっさい!うっさいわね!!!」
 分かりやすいほどに焦りながら少女が仁の言葉を遮る。
「お互い怪しい者同士、詮索しあうのは野暮ってもんじゃない?」
 ちょっと悪役のような表情になり指を左右に振る少女。
「・・・・」
 色々とつっこみたくなったが、こじれても困る・・・仁は内心で盛大なため息をつきながら首を縦に振った。
「そーよねぇー!いやーあんた分かってるわ!」
 そういって今度は打って変わったフレンドリーな態度で接してくる少女。なんとも変わり身の早い器用な人だ。
「私は佐々野 舞愛(ささの まいあ)。あんたは?」
 詮索しないとかいいながら、自ら自己紹介までする少女が握手を求めてくる。まったくもって破天荒な性格の少女だが、仁もそう強くは出られない。向こうの素性も定かではないが、こっちは完全に不法侵入者だ。
『それに、この人が中で襲われなんかしたら・・・』
 自分は戦う決意をした。それは誰かを守るため。人を脅かす妖魔を倒すためだ。こんなことで引き下がるわけには行かない。
「俺は上梨 仁です」
 仁はやや緊張気味に自己紹介をし、手を握った。
「おっけー!よろしく仁!」
 ぎゅっと舞愛が笑顔で手を握り返してくる。その表情に邪気は一切ない。
 素性は分からない。だが、二人は直感で感じていた。互いが悪しき存在ではないことを。共に行動しても良いということを。
「さぁってと、じゃあ早速ここを超えないとね!」
「ですね」
 改めて金網を見上げる。軽く2メートルはある。
「んじゃ仁、土台になって!」
「へ?」
「また服がひっかかって破けたら困るでしょ?土台があれば楽に超えられるわ」
 ・・・・どうやら今日はホントにツイてない日らしい。泣きっ面に蜂・・・このコトワザはこういう時に使うのが適当なのかもしれない・・・仁はそう思った。
by eternal-d-soul | 2007-02-21 11:07 | 連載小説:剣客奇譚カルナ