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管理人山猫礼と副管理人ユースケによる小説と絵のブログ 毎週水曜更新b


by eternal-d-soul
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近未来新都心 Chapter01 NO.06

経済区第3セクション アーバインカンパニー本社ビル1階 メインホール・・・
PM1:31・・・

 アーバインカンパニー・・・大型HSMを主体とする機械工業産業を主軸とした業界第三位に位置する有力企業の一つ・・・
 三人はアーバインカンパニーのメインホールに来ていた。簡素だが、しっかりとした作り、そして清掃が行き渡った壁や床。少ないがアクセントとして用いられている観葉植物などはどれもセンスの良い物ばかりだ。
「警備隊第3部隊所属、警邏長ジェイン=マックレガーですが、事件の調査に協力して頂きたい」
 ジェインは警備部隊に所属していることを証明する所属証を見せながらフロントの女性に話しかけた。女性はそれを見ると一瞬ハッとした顔をしたが、すぐに表情を元に戻し笑顔で答えた。
「警邏長のマックレガー様ですね。ただいま外交の者をお呼びいたします」
 そういうと女性はインカムでどこかに通信を繋ぎ、会話を始めた。
「随分率直にでたね」
 壁に背中を預けていたサガトが話を終えたジェインに話しかける。
「黒とも分からない相手を初めから疑ってかかるわけにもいかんだろう」
 ジェインも壁に背中を預けてため息をついた。
「確かに・・・まずは情報を集めるのが先決か」
 しばらくして二人の下にベージュのスーツを着た体つきの良い長身の男が現れた。
「どうも初めまして、外交を勤めますニコライ=ジルビスです」
 ニコライと名乗った男は深々と礼をすると、懐から名刺を取り出してジェイン達に一枚ずつ差し出していった。ラウルは興味がないのか名刺を受け取ろうとはしなかった。
「これはどうも、警備隊第13部隊所属、警邏長ジェイン=マックレガーです」
 言いながらジェインはニコライと握手を交わす。
「そちらのお二人は?」
 ニコライがサガトをラウルを見る。
「まぁ、助手みたいなもんですよ。俺はサガト、こっちの銀髪はラウルです」
 サガトは軽い会釈をする。ラウルは相変わらず仏頂面でニコライの方も見ようともしない。
「なるほど・・・立ち話は悪いですから応接室へご案内いたします」
 ニコライに促され、三人は応接室に向かった。

 応接室はアーバインカンパニー本社ビルの上層階、50階に位置している。応接室は40畳程度の広い部屋で、ブラウンの本革のチェアと珍しい木で出来た黒のテーブルが置かれている。
「どうぞおかけください」
 促されるままにジェインとサガトはチェアに腰を降ろした。ラウルはやはりドアに近い位置の壁に背中を預けて腕を組んだ。
「ラウルさんもどうぞおかけになって下さい」
 ニコライがラウルに薦めるが、ラウルは無言のまま目線を逸らした。
「いいですよ、そいつは立ってるのが好きですし」
 居所の悪そうなニコライにサガトが助け船を出す。
「はぁ・・・分かりました」
 ニコライは少しとまどった様子だったが、すぐに席についた。
「では、早速話に移りましょう。先日のナイビアストリートでの事件は知っておいでですな?」
 ジェインが話しを切り出す。
「ええ、もちろん。違法強化HSMが単独で暴動を起こしたとの事ですが・・・まさか我が社を疑っておいでですか?」
「いえ、まさか。ですが少々気になることがありましてな。詳しくはこちらをご覧になって頂ければ・・・」
 ジェインが一枚のバーチャルノートを取り出してニコライに差し出す。ニコライは「拝見いたします」と言うとバーチャルノートに眼をおとした。全てを読み終えたニコライは険しい顔つきで顔をあげた。
「・・・・なるほど、確かにこのHSMの構造は我が社の工業用HSM、AIP-046-Nと酷似していますね」
「そういうわけでしてな。参ったことに手がかりがそれだけしか掴めませんでしてね・・・それでここに伺ったという次第です」
「なるほど・・・・」
 ニコライはしばらく悩んだ様子だったが、神妙な面持ちで口を開く。
「これは・・・内々の事でして、口外はしたくないのですが・・・」
「何か情報をお持ちで?」
「実は、数週間ほど前にバウサー・・・ああ、AIP-046-Nの事ですが・・・12機ほど横流しが起こりましてね・・・」
 その言葉にサガトとジェインが反応する。
「と、いいますと?」
「すぐに犯人は分かりました。我が社の社員でして、即刻解雇しましたが、横流しされたAIP-046-Nは7機しか回収することが出来ませんでした・・・・」
「つまり、5機は今もどこかにあるって事・・・か」
 サガトが初めて口を開く。その眼は何かを睨むように鋭い光を放っている。
「そうなります・・・恐らく今回の事件のHSMはそれがベースになっているものではないかと・・・・」
「なるほど・・・」
 ジェインがため息をついて、腕を組む。
「その横流しをした社員というのは?
「名前はヘンリー、我が社では事務をおこなっておりました」
「ジルビスさん、その横流しをした社員の情報を頂けませんか?」
「ええ、もちろん。少々お待ち下さい」
 サガトに言われたニコライは席を立つと応接室を出て行った。
「どう思う?」
 ニコライが出て行ったところでジェインが口を開く。
「どうもこうもな・・・ここで分かったことは今回の事件のHSMが横流しされたAIPって機体の改造版だってくらい・・・後はその横流しに関与してたっていう社員が何らかの手がかりを持っていればいいが・・・」
 サガトも釈然としない・・・といった感じだ。
「ただ・・・・」
「ん?」
 サガトが口に手を当てて考え込むような仕草を見せる。
「いやね・・・あの外交係、ちょっと協力的過ぎやしないかとね・・・」
「どういう意味だ・・・?」
「普通、外交係なら、ああいった情報はあまり外には出したくはないはずだ。それにアーバインは警備隊にも多くの費用を出している・・・わざわざ不利益になるような事はしないはずだ・・・それが、こうもあっさり情報を渡すなんて・・・そう思わないか?」
「・・・・・」
 ジェインの眉がひそめられる。
「確かに・・・妙だ」
「ひょっとしたら裏になにか・・・・」
「お待たせしました」
 とそこにニコライが一枚のバーチャルノートを持って戻ってきた。
「ああ、これはどうも・・・」
 ジェインがそれを受け取る。
「その中に解雇した社員に関するデータは全て入っています」
「ご協力感謝します。少々はやいですがこれで・・・」
 サガトはそう言うと応接室のドアに手をかけた。
「まて・・・調べなくていいのか?」
 ラウルが部屋を出ようとしたサガトに小声で問いかけた。サガトは静かに首をふる。するとそのままラウルは無言でサガトの後に続いた。
「ではこれで」
 ジェインも軽くお辞儀をすると外に出た。

「どうした?急に・・・」
 車に乗り込むとジェインが訝しげな顔でサガトに訊いた。
「あそこであの話はマズイじゃないかと・・・ね」
「確かにそうかもしれんな・・・・」
 ジェインがキーを回してエンジンをかける。サイドブレーキを降ろすと素早く慣れた手つきで車を発進させる。
「それに・・・今はアーバインの裏を探るより目先の強化HSMをどうかする方が先決だと思うんですけどね、隊長殿」
「いい加減その呼び方はやめろ、小馬鹿にされている気分になるジェインでいい。しかし、どういう事だ?私達の目的は強化改造HSMを作った裏を探る事であろう?もしアーバインが関与してるなら・・・・」
「それはそうかもしれない・・・けど、あれだけの大企業を探るには時間がかかりすぎるし、こっちが処理したのはまだ1機・・・単純計算だけど残りは4機・・・それが前みたいに暴れたら、ちょっと困った事にならないか?」
「ふむ・・・」
「それにこっちも気になってね・・・」
 サガトは車に乗るまでにバーチャルノートのデータに眼を通していた。
「名前はヘンリー=マクマフォイ、アーバインでは主に会計関連の事務をしていたらしい」
「横流しには丁度良い位置というわけか・・・・」
 サガトから受け渡されたノートから3Dで浮かび上がるヘンリーの姿を見ながらジェインは呟いた。ヘンリーは細身・・・というよりガリガリだが・・・長身の男で猫背、髪は七三にしっかりと撫でつけられている。頬骨が浮き出た面長の顔には黒縁の眼鏡をかけており、いかにも神経質そうな男だ。
「まぁそうなるな・・・だが気になるのは過去の経歴の方でね・・・昔ラオ・シンスーに勤めていたと書いてある」
「ふむ・・・となるとラオの関与の可能性も出てきたということか・・・」
「そういうこったな・・・早いところこのマクマフォイってヤツのところに行こう。どうも良い予感がしない・・・・」
by eternal-d-soul | 2006-12-20 10:14 | 連載小説:近未来新都心