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管理人山猫礼と副管理人ユースケによる小説と絵のブログ 毎週水曜更新b


by eternal-d-soul
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剣客奇譚カルナ 1話 No.03

 くるくると回る救急車の赤いランプが妙に気に触る。赤く染め上げられる校内は仁には不吉なものにしか見えなかった。
「・・・それじゃお願いします」
 赤間が救急車の運転手に頭を下げる。運転手は「それでは」と言うと、救急車に乗り込んでいった。
「・・・・」
 仁は未悠が救急車に乗せられる様を黙ってみていた。険しく、辛い顔・・・見ているだけでこちらの気持ちまで苦しくなるような痛切な表情。
「親御さんには俺が連絡を入れておく。上梨、今日はお前もう帰れ」
「・・・はい」
 仁が小さい声で答える。弱々しい仁の様子を見て赤間が肩を叩いた。
「上梨・・・何があったかは分からないが、お前が悪いんじゃない。あまり気を落とすな」
「・・えるが・・・」
 仁がわずかに何かを言うが、それは小さな声で赤間には何と言ったか聞こえなかった。
「ん?」
「・・・なんでもありません」
 仁は俯いたまま生徒会室に戻っていった。
 未悠はかなりの重体だった。それは素人目に見ても分かる。詳しいことは仁には分からないが、保健医がやたらと慌てて応急処置を施したり救急車を手配したことを見えればどれだけの事態かは明らかだ。
「・・・・・」 
 戻った生徒会室は思ったよりも散らかっていた。未悠の座っていた席のまわりには彼女が書いていた資料や鉛筆、ボールペンが転がり、机も動いているのが分かった。そして床にうっすら残っている水気と微かな異臭・・・・。
 それらがあの時見た蛙男が幻でないことを告げていた。あの不気味な生き物は確かにこの部屋に居た。間違い無く存在する。
あんな化け物が出たなんて誰も信じないだろう。だから仁は赤間には言わなかった。「蛙男が出た」のだと。この眼で見て、いまここに証拠まであったとしても仁自身、未だに半信半疑なくらいなのだ。見ても居ない人が信じるはずもない。
(信じる、信じないなんてどうでもいい・・・)
問題は未悠のあの症状・・・あれは今まで原因不明で学校を休んでいる人達とそっくりな症状。いや、その症状そのものだ。
「あいつが・・・」
 あの蛙男が一連の原因不明の症状の元凶。確証はないが、この状況を見れば想像は出来る。
「・・・」
 仁は蛙男が飛び出していった窓を睨んだ。外に広がっているのは夕闇が過ぎ去った後の暗い闇。この闇の中にあれは居る。

 暗い校舎。静かな校舎。生徒も先生も誰もいない校舎。
 本当にそこは暗黒の領域ではないかと思うほどの世界だ。文明が発達した現代ではこういった静寂に包まれる空間は少ない。ましてそこが普段、人々が多く居る空間ならば尚のことだ。そこは異界と変わりがないほどの恐怖を感じさせる場所となる。
 仁は金属バットを片手に校内を歩いていた。端から見ればただの怪しい人間にしか見えないが、それでも本人は至って真面目だ。いや、むしろ金属バットなどというものでは物足りないと言った方が正しい。
 相手はあの蛙のバケモノだ。こんなモノが通じるかどうか・・・。
「・・・・」
 それでも何もしないではいられない。あんなモノを見て。あいつをあんな目に遭わされて・・・・・。黙っていられるはずもない。
「どっから探せばいいんだろ・・・」
 一旦帰ってから私服に着替え、バットを持ち出し学校に乗り込んだはいいが、いざこうして見てみるとかなり広い。学校によって広さはまちまちだが、それでも高校ともなればそれなりの広さがある。校内だけでなくグラウンドや部室等、体育館やらその他の施設までをひっくるめれば隠れる場所はそれこそ無数にある。その中から蛙男を探し出すのは思ったより骨が折れそうだ。
「やっぱりここか?」
 仁が来たのは生徒会室だ。ドラマで刑事がよく言う「現場100回」という言葉。何の手がかりも無いのだからそれくらいしかする事がない。
「・・・あれ?」
 生徒会室の扉に鍵がかかっていないのだ。てっきりかかっていると思って、こっそり作っておいたスペアの鍵を持ってきたのだが・・・。
「うーん・・・まぁいいか」
 深く考えても仕方がない。未悠が倒れた後のドタバタでかけ忘れた、そんな所だろう。
「・・・」
 中に入るとそこは帰ったときと変わりがない部屋だった。
 仁が帰る前にある程度片づけをしたので荒れてはいないが、部屋の雰囲気は未だに不気味な香りを残している。
「やっぱり何も分からないよなぁ・・・」
 来てみたはいいが、仁に何が分かるわけでもない。試しに蛙男が出て行った窓を開けて外を覗いてみるが・・・
「真っ暗・・・」
 近くに明かりがほとんど無いので何も見えない。
「・・・・」
 それにしても今思えば、蛙男はどこから来たのだろう?窓側に立っていたのだから、入ってきたのもやはり窓からだったのだろうか?そもそも、ここは三階だ。それなりの高さがある。化け物相手に現実的な話はナンセンスかもしれないが、どうやって入ったんだろうか?
「カエルだけにめちゃくちゃ飛ぶとか・・・?」
 ビョンビョンと校内を飛びまくる蛙男・・・あんまり想像したくない光景だ。
カッ・・・!
「!?」
 何かの足音に仁は驚いて振り返った。同時に明かりが眼に向けられて何も見えなくなる。
「誰だ?」
 男の声が仁に問いかけてくる。
 さすがにこの状況はマズイ、と仁は思った。こっちは私服でおまけに金属バットなんて物騒なものを持っている。ヘタをすれば通報されかねない出で立ちだ。
「あの・・・これはその・・・」
 しどろもどろになる仁を黙って見ながら男が呟いた。
「上梨、仁・・・か」
「!?」
 急に名前を呼ばれて仁が驚く。何故名前を知っているのだろう?
 男が懐中電灯を降ろしてようやくその顔が見える。が、そこに立っていたのは仁のまったく知らない男だった。
「あなたは・・・?」
「・・・・」
by eternal-d-soul | 2006-11-15 19:11 | 連載小説:剣客奇譚カルナ