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管理人山猫礼と副管理人ユースケによる小説と絵のブログ 毎週水曜更新b


by eternal-d-soul
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剣客奇譚カルナ No.0 プロローグ

剣客奇譚カルナ  No.0 プロローグ

そこは暗く広い部屋だった。夜だというのに明かりの類は全くなく、天窓から差し込んでくる僅かな月の明かりだけがその部屋を照らしている。
「・・・・」
 その真ん中には大きなベッドが一つ置いてある。日本では見かけることがほとんどないキングサイズのベッド・・・その上に一人の少年が横たわっている。
 ギィ・・・
 扉の開く音がして一人の男が部屋に入ってくる。月明かりに照らされる男の横顔はまるで面のように美しく整っている。眼鏡の奥から覗くその瞳もガラス球のように澄んでいて全く曇りがない。
 男は歩を進めてベッドの縁までたどり着く。
「変わったな」
 急に少年が口を開き、目を覚ます。眼を見開き、瞳だけを動かして男を見上げる。
「ええ、この宿主のおかげで随分と」
 男は柔和な、だがどこか感情が欠落した笑みを少年に向けた。
「名前は?」
「狩野 克巳です」
 少年がゆっくりと上半身だけを起こす。
「この身体にも名前がある・・・住屋 庸司というらしい」
 そういって庸司は自分の小さい手を眺める。その左の手首には変わったデザインの腕輪が光っている。
「そうですか・・・ではこれからは住屋様とお呼び致します」
 狩野が住屋に深々と頭を下げる。
「呼び方は任せる。俺にとってはどうでもいいことだ。それよりも・・・裏切り者はどうした?」
「申し訳ありません。宿主は始末出来たのですが・・・」
「そうか」
 庸司の切れ長の瞳がいっそう細くなり凍てつく様な光を帯びる。狩野がその変化を感じ取りその表情に僅かに変わる。そこに浮かんでいるのは畏怖。
年端もいかない少年である庸司。だが、その細く華奢な身体からは強烈な、それでいて凍えるような気が溢れ出している。
「ヤツに回収はされましたが、新たな適合者が見つかるまでには今しばらくの暇があるかと」
 狩野が険しい表情で恭しく頭を下げる。ややあって、庸司が口を開いた。
「・・・運命の扉を開く歯車は回り始めている」
「・・・・!」
 狩野が、はっと顔を上げ息を呑む。
「狩野・・・だったか?その身体は」
「はい。住屋様」
「狩野、焦る必要はない。総ては真なる刻まで。運命は留まらない」
 庸司は何もないところを観ていた。光のない虚ろな瞳・・・だが、その奥底には憎悪が、怒りが滾っていた。それは誰に、いや何に対するものなのか・・・それが分かるのはその主である庸司ただ一人であった。
by eternal-d-soul | 2006-10-10 01:25 | 連載小説:剣客奇譚カルナ